トラブル対応に追われて、若手技術者育成まで手が回らない
公開日: 2026年10月19日 | 最終更新日: 2026年10月18日
タグ: OJTの注意点, パワハラ, メールマガジンバックナンバー, 働き方改革, 技術者の上司とは, 技術者の自主性と実行力を育むために, 生産・量産

生産の最前線や研究開発でも開発色の強い職場では、
トラブル対応に追われる日々で時間が過ぎる技術者は珍しくありません。
このような職場のリーダーや管理職からよく聞くことが、
「若手技術者の育成まで手が回らない」
という言葉です。
今回はトラブル対応に追われるような多忙な職場に配属された若手技術者の育成について考えます。
変化する若手技術者を取り巻く職場での雰囲気
昨今の潮流から言えば、新しく入社した若手技術者は大事にする、
というのが当たり前となっています。
若い人を大事にするという終身雇用が基本の日本企業では昔からその傾向はありましたが、
概ね一つに集約できるであろう変化の流れができているのは興味深いです。
それが、
「ハラスメントを意識して、言わなければならないことも言わない」
という雰囲気です。
企業組織からのハラスメント回避の要求を、リーダーや管理職が”自らのリスクを最小化”した場合の”最適解”として示した応答だと私は考えています。
大手企業だけでなく、中小企業でも同様です。
職場を”優しい”といった肯定的な意見で表現することもあれば、
”緩い、成長できない”に加え、”話せる相手がいない”といったやや否定的な表現をする若手技術者もいます。
どれも上記にあるリーダーや管理職が、
企業組織の方針を自己解釈して出した最適解によってもたらされた答えだと思います。
恐らく多くの企業においてこのような雰囲気になっているものと想像します。
※関連コラム/連載
第28回 パワハラが怖くて若手技術者育成に取り組めない 日刊工業新聞「機械設計」連載
技術者以前に社会人としての基礎が未熟な若手技術者は増加傾向
あくまで私個人の企業指導の経験でしかありませんが、
日々の言動に口うるさく言われる機会も減った今の若手技術者の方々の中には、
社会人経験年数の割には社会人として常識が欠けている方が増えてきている印象を受けています。
より正確には言われなくてもできる若手技術者と、
本来言われれば修正できる若手技術者の差が年々大きくなっているといえます。
リーダーや管理職をはじめとした上司からの指摘や指導で成長する多くの若手技術者
昔から言われなくともできた若手技術者は自然と成長しました。
このような方々は今の時代でも日々成長し、戦力となっていきます。
一方で企業に入ってから様々なところを指摘、指導されて修正することで成長する若手技術者もいます。
恐らくこのような方々の方が多数だと思います。
しかしながら前出のような職場雰囲気のため、指導や指摘の機会が減ったため、
若手技術者の方の中には2年目、3年目、場合によっては5年目以上になっても学生と変わらない印象を受ける方が増えたというのが、様々な企業の指導を行う中で感じているところです。
感覚論ではなく実体験です。
なお、私は指摘によって修正していくタイプで、入社間もない頃から上司の方々に様々な指導や指摘、
そして時に叱責を受けたことで修正してきました。
このようなタイプの若手技術者で指導、指摘、叱責を受けられなかった方々は、
若手でなくなった時に苦労するかもしれません。
下から信頼されず職場で孤立し、
場合によっては力をつけた下から強烈な突き上げを受けるからです。
ただこの話は年齢を重ねなければわからない話で、若手技術者の方々が理解することは難しいでしょう。
そういう意味では私も今の時代に若手技術者で、
かつ昨今の職場雰囲気に入ったと仮定すると、
異なる技術者としての人生を歩んだ可能性は否定できません。
もちろんどちらが良かったかはわかりませんが、今のようにはならなかったと思います。
若手技術者をトラブル対応由来の忙しさやプレッシャーから守り過ぎてはいけない
このような雰囲気もあってか、仮にトラブル対応に追われるような多忙な職場に配属された若手技術者であっても、
「トラブル対応由来の忙しさやプレッシャーから守る」
ということを行う職場もあるようです。
育成に時間を使って戦力化しようという理想に近い考えもあるかもしれませんが、多くの企業で感じているのは、
「せっかく入った若手技術者が心身の不調をきたし、最悪は短期で退職することを避けたい」
ということに加え、何より
「ハラスメントで訴えられて、自分のキャリアの傷になるようなものは回避したい」
という保身と言われてしまうかもしれない、リーダーや管理職の意識はあるかと思います。
この意識は否定できません。
不安な世の中にあって、安定した社会人としての立場は重要だからです。
しかし、若手技術者を育成し戦力としていくためには、
若手技術者を忙しさやプレッシャーから守り過ぎてはいけません。
技術者にとって重要な技術者の普遍的スキルは実践経験で磨かれる
どれだけ技術が進歩しても、変わらないことがあります。
それは、
「技術者としての本質的な力である普遍的スキルは実践経験を通じてのみ体得できる」
ということです。
技術者の普遍的スキルは技術業界不問の重要なスキルですが、
これを若手技術者自身の血肉にする経緯は各個人で様々です。
何をきっかけにそのスキルの必要性を痛感し、
自らのものにするかは多様過ぎて万能解はありません。
唯一共通するであろう当該スキル鍛錬方法は、
「当事者意識を持っての徹底的な実践経験を経ること」
です。
つまりトラブル対応から守る、つまり遠ざけることは、
この実践経験を積む機会を若手技術者から奪うことになりかねません。
実践経験の重要性については、過去のコラムでも述べたことがあります。
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若手技術者は実践経験を自らの成長の糧にする黄金期
若手技術者にはいくつかの素晴らしい武器があります。
今回の例で最重要なのは”知らない”ことです。
知らないことは若手技術者最大の武器
ここでいう知らないは、”知識として知っているか否か”という意味ではなく、
”経験を通じて体感しているか否か”という意味です。
何度か述べた通り技術者育成において知識はさほど重要ではありません。
知っている止まりだからです。
この知識を応用して具体的な解決法を提案し、実行できるレベルの知恵こそが本質です。
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将来研究開発を担う若手技術者の育成には中長期の研究は適さない
知らないことを弱点と表現するリーダーや管理職、若手技術者も多い傾向にありますが、
技術者育成の観点から言えばそれは若手技術者が最も重視すべき自らの強みです。
知れば知るほど人間は保守的になります。
経験則が邪魔をするのです。
知ることは意識的に過去の経験から痛い目を見たものなど、
つらかったものを回避しようとする行動につながります。
これでは、経験の幅が広がることはありません。
知らなければ何が起こるかわからないので、
そこに突っ込んでいく勇気を持つことができます。
経験蓄積には重要な力です。
知らないことで色々なことに対する恐怖心が少ない
知らないことは上記の通り、知らないことに対して前進する勇気と関係があります。
できない理由を述べる前に、
「まずはやってみよう」
といえる純粋さがあり、恐怖心が少ないのです。
この恐怖心の少なさこそが、
技術者の普遍的スキルの向上に向けた実践経験蓄積の原動力であり、
特に当該経験蓄積の入り口の障害を取り除く効果があります。
若手技術者のうちに実践経験の幅や高さに制限をつけてしまうのは、
その成長可能性をつぶすことにもなりかねないといえるでしょう。
若手技術者は無知であることを強みとして、
様々な経験を積み重ねる黄金期なのです。
トラブル対応に若手技術者を一部担わせる
以上のことを念頭に若手技術者の成長を願うのであれば、リーダーや管理職は
「トラブル対応に若手技術者を一部担わせる」
ことに挑戦してください。
あれこれ頭で考え始める前に、まずはやらせてみるのです。
ただやみくもに任せればいいというわけではありません。
留意点を述べておきます。
効率を求めない
技術者育成の鉄則です。
トラブル対応は時間的に余裕が無いこともあるでしょう。
それを念頭に置きながらも、
「効率ばかりを求めるやり方を押し付けない」
ことが重要です。
例えば若手技術者がトラブル対応のやり方の記録をまとめようとしていた際、
「要点だけ書けばいい。まずはさっさと対応してくれ。」
といった指示が一例です。
まずは非効率であっても若手技術者なりのやり方でやらせてみる
要点だけ書けばいい、というのは経験を有する技術者であれば匙加減がわかるでしょう。
しかし若手技術者は技術者の普遍的スキルは未熟のため、要点抽出力も低い。
その状態でそのようなことを言われれば混乱するでしょう。
まずは本人なりに正しいと思うことをやらせてください。
その上で、こうした方がいい、ああしたほうがいい、という指摘をすればいいのです。
これ以外にも効率を求めすぎると、例えばトラブル対応で最重要の原因の究明や対策に欠陥が生じ、
問題が将来再発しかねません。
そもそも若手技術者育成においては効率の考えはご法度です。
時間軸を守らせることは重要ですが、
効率を念頭に置いた指導をしないよう、
リーダーや管理職は注意が必要です。
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不必要な叱責はしない
近年の企業における職場環境を見ていると、
このようなことを述べる必要はもはやないかもしれません。
ただ確認の意味も兼ねて述べておくと、
「不必要な叱責」
に技術者育成効果は望めません。
叱責によって若手技術者が成長することはあまりないのです。
私自身の経験を振り返っても叱責によって成長した記憶はあまりありません。
どちらかというと、仕事的なプレッシャーで試行錯誤した経験こそが生きていると感じます。
リーダーや管理職が叱責しなくとも、当事者意識さえあれば若手技術者は成長のきっかけを自ら見つけていきます。
若手技術者の成長に必要なのは、
当人の当事者意識と主担当としてやり切った技術業務の数です。
既述の通り育成を焦って叱責を繰り返すリーダーや管理職も昔はいましたが、
今は少なくなったかもしれません。
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ただし、若手技術者育成において叱責は不可避な場合があることも併せて述べておきます。
若手技術者も必死にやっていれば時に感情的になってリーダーや管理職が叱責してしまうこともあるでしょう。
これはリーダーや管理職の業務に対する当事者意識に加え、若手技術者に育ってほしいという強い願いによるものなのです。
技術者は年齢や立場違えど、感情を有する生き物です。
放置は最悪
一方で最近多いのが”放置”です。
これは現代の若手技術者を苦しめる一番多いリーダーや管理職の行動パターンと言えます。
ハラスメントリスクを背負うくらいであれば、何もしない方が安全だろう。
先に述べた通り、そう思うリーダーや管理職を頭から否定できません。
仮にトラブル対応といった精神的プレッシャーもきつい仕事の一部を担わせるとします。
「これをやっておけ」
と一言いうだけであとは放置となると、
若手技術者は途方に暮れることになるはずです。
もちろんそのような経験を経て成長する若手技術者もいますが、
多くの彼ら、彼女らにとってそれは乗り越えられない壁となるでしょう。
リーダーや管理職に相談しても明確な提案が無いとなれば、
最適解というありふれたことしか言わない生成AIに頼るのが関の山です。
こうならないよう、リーダーや管理職は若手技術者にトラブル対応の一部を担わせつつも、
定期、不定期にコミュニケーションを取る時間をつくり、
若手技術者が行き詰まらないよう注意を払うと同時に、
相談があればすぐに乗るチャンネルを用意しておくことが肝要です。
本点は後述するリーダーとの連携にも関わる内容です。
※関連コラム/連載
第37回 上司や生成AIの添削内容をコピー&ペーストするだけでは力がつかない 日刊工業新聞「機械設計」連載
担わせる業務はすべてではなくあくまで一部
若手技術者をいきなりトラブル対応業務の中心において、
すべてをやらせるというのは違います。
まずはリーダーに該当する中堅技術者を主担当にしつつ、
若手技術者が担うのはその一部にする必要があります。
これは技術チームとしての連携を理解させる重要な鍛錬の側面もあります。
若手技術者にはまとめ役であるリーダーに積極的にコミュニケーションを取る癖をつけさせる
ここで若手技術者に徹底させたいのが、
「トラブル対応の最前線に立っているリーダーに情報を継続的に報告し、必要に応じて相談する」
という、技術コミュニケーションの基本です。
組織内で若手技術者が生きていくためには不可欠なものです。
自らがやっていることを報告することが苦手な若手技術者が多いことも念頭に、
情報を常に上司に当たるリーダーにインプットする癖をつけさせるのもこのタイミングです。
前出の通り、定期、不定期でのコミュニケーションが手法の一つになります。
できればメールやチャットだけでなく、
口頭で補足することが自然にできるようになることが望ましいといえます。
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最後に
トラブル対応は技術的専門性というよりも、
事実を適切に把握し、それをチーム内に展開して原因究明や対策立案を促すことが求められます。
企業に属する技術者としての技術専門性が高まり、
それが求められるのはこのような基本ができた”後”です。
若手技術者のイメージする技術業務と違う部分があるかもしれませんが、
先にこのような実践経験をしておくことが重要です。
専門書、Web検索、生成AIによる探索はあくまで知識止まりです。
重要なのはそれを自らの頭の中で画像化できる経験です。
知らないという武器を持つ若手技術者のうちに経験を蓄積すべきです。
ハラスメントリスクを過剰に意識して若手技術者をトラブル対応等の業務から遠ざけるのではなく、
後方支援と相談窓口を確立したうえで、当該対応の一部を担わせることは経験蓄積という観点で極めて重要です。
リーダーや管理職も必要以上に怖がることなく、
若手技術者とともに実践業務に取り組むことに挑戦し、
結果としてその育成を進めることが肝要です。
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