技術者にとっての研究開発と 量産

若手技術者にとって路線の大きな分かれ道となるものの一つに、


「 研究開発 と 量産 」


というものがあります。


大手企業を中心に研究開発と量産の間には組織による区別がされているケースが多く、
それぞれの担当者の意見がぶつかることが多々あります。


私は運良くどちらも最前線での経験をしているのでよくわかるのですが、
結論から言うと、


「研究開発と量産は両方とも経験していなくてはバランスのとれた技術者にはなれない」


ということがわかってきました。


ここは実例を踏まえて少し考えてみたいと思います。

 

 

研究開発の中で特に研究に力を入れたがる若手技術者


日本は文系と理系を区別する国際的にみると比較的特殊な教育体系をとっていますが、
それゆえ理系出身の技術者は比較的高い専門性を学べる機会が多い、
という教育上の強みがあります。


その一方で、理系という特殊な教育を受けて技術者になる故、
技術者は多くの共通の特徴を有しています。

 

そのうちの一つが、


「企業に入って間もない若手技術者は研究をやりたがる」


ということです。

 

研究というのはより分かりやすいところでいうと、
原理原則を突き止めるための検証、検討のことで、
大学での研究の延長線といえます。


これは大学でそのような教育を受けたために、仕事というと研究だ、というイメージが出来上がってきてしまっているのかもしれません。

 

 

企業が若手技術者に求める開発業務


その一方で、


「企業側の多くで若手技術者に期待するのは開発での成果」


です。


つまり、


「売り上げを担保する製品やサービスの具現化に取り組んでほしい」


と思っているのです。

 

これは、組織の理論から言えば当然といえます。

 

極端なことを言うと細かいことを逐一突き詰める研究よりも、
一刻も早くキャッシュを生み出すものが欲しい、
という考えです。

 

もちろん、やみくもに市場に出すことを目指してはいけないということで、
企業側も企業内での評価会を設けて、製品として問題ないか、
ということを客観的に判断するシステムを設けるなどしている例は多くあります。


しかし、原理としてある程度捉えられれば、
必要以上に深追いをすることは求められません。


様々な程度があると思いますが、多くの企業では同じような考えといえます。

つまり、研究開発といっても実は研究と開発で認識は分かれているのです。

 

 

研究開発と量産に関する認識は企業でも理解できていない


そして今回のコラムでの最も大きな問題は研究開発の話ではなく、
研究開発と量産の話です。


実はここは企業内でも理解ができていないケースが非常に多く、
問題が後で出るケースが後を絶ちません。

研究開発で具現化するところまでできた時点で、
量産まで見据えた対策が取られているプロジェクトが極めて少ないのです。


研究開発と量産の間で生じる問題の根幹は以下の2点です。


– 研究開発と量産の間に組織間の壁がある


– 量産は現場の性善説に基づいた文化が色濃い


それぞれについて考えてみます。

 

 

研究開発と量産の間に組織間の壁がある

 

これは企業の指導だけでなく、自らの経験でも多く経験したことですが、
研究開発と量産の間の意識があまりにも違いすぎます。


研究開発で重要なのは製品の性能やコストなど、
どちらかというと一品ものをベースにした試作や机上の計算を基本としたものが多い。

これは否定するものではなく、そういういうものだという理解でいいと思います。

 

しかし、量産で必要なのは

 

「長い将来にわたって同じものを作り続け、もし何か異常が生じたときにその原因究明に必要なデータを蓄積できているのか」

 

ということです。

 

研究開発の段階でこの点を考えている技術者は若手、ベテランに限らず皆無です。


これが後で非常に大きな問題につながります。

 

例えば、図面で厳しい公差を設定したとします。


これは部品の組み立てや製品性能の発揮に必要な要求なので要求してしかるべき、
というのが研究開発フローでの考えであり、それはそれで重要です。


しかし、その要求公差が現実と大きく離れている、
または多くのものを作った時の製造ばらつきや、検査そのもののばらつきを考慮すると、
実現が不可能である、ということは多々あります。


これを実際に量産図面を発行するまで確認しないで突き進んでしまうので、
量産工程に入ってから問題が顕在化することは枚挙に暇はありません。

 

本来であれば量産図面を出図するまえに、
量産部門や量産を担う協力メーカときちんと協議し、
実現可能なのか否かについて議論しながら図面を仕上げていくべきなのです。


しかし、よくあるケースが、


– 量産実現性をまったく考慮、配慮せずに図面だけが仕上がっていく

– 量産時に確認すべき重要な要件事項が図面に書かれていない

– 量産を行う組織の担当者が図面をきちんと見ていない

– 研究開発担当者と量産現場は口頭ベースの感情論のぶつかり合いと責任の押し付け合いのみで議論が前に進まない


といったものです。


すべてのリスクや問題を事前に摘み取るのはもちろん極めて困難です。


しかしながら、実際に製品をつくる量産とその製品の仕様を決める研究開発部隊の距離感があればあるほど、量産開始後の問題が多く起こることは間違いありません。

 

研究開発の担当者が重要視すべきは、

– 要求仕様を定量的かつ明確に明記した図面、規格、その他仕様書をきちんと準備し、活字ベースでの議論を進める


量産現場の担当者が重視すべきは

– 研究開発担当者からきちんとした仕様要求文書(図面、規格等)がでてきているか確認し、出てきていない場合は強く要求する

– 上記の仕様要求文書をきちんと読み込み、疑問点や懸案点などあれば確認と議論を行う


ということです。


活字をベースとした研究開発と量産の議論は議論が発散しないためにも、
そして証拠を積み上げる意味でも極めて重要であり、
これが研究開発と量産の間で繰り返し行うべき議論といえます。


上記のような繰り返しの議論こそが、その後の問題を最小化してくれます。

 

 

量産は現場の性善説に基づいた文化が色濃い

 

これはある意味日本固有かもしれません。

私も北米で量産ラインの立ち上げを行いましたが、
基本的には性善説で動いてうまくいった例は皆無です。

 

そのため、生産現場においては問題点を最小化するために多くの文書を生産現場と作成し、
それを守ってもらうよう徹底した管理を行いました。

最初は現場からの反発も多かったですが、時間をかけて取り組むうちに人としての信頼を勝ち取り、
当初多く発生した不具合が激減するまでになりました。

 

この経験は海外だけに当てはまるもので、
マスメディアで報道されているように日本は優秀な製造現場なのかと思いましたが、
私の限られた経験という前提があるものの、
最近の日系企業指導を通じて生産現場や生産受託企業の内情をみて閉口するばかりです。


一言でいうと私の経験の範疇で見る限り日本の生産現場は性善説が成立するようなところではありません

 


最近様々なメーカでのねつ造や手抜きといった問題が出ていますが、
大手なので騒がれているだけであのような問題は日本全国どこでも起こっているのが実情だと感じています。

 

しかしながら上記のようなマスメディアの報道に加え、私の実体験を話しても、
私の顧問先企業に加え、多くの日系企業において必ずしも同調してくれないというのが日本の製造業最大の懸案と思います。


やはり、性善説が基本なのです。

日本の製造現場で間違いなく言えるのは、オペレータが職人としてのスキルが高く、
柔軟性があるということ。


これは強みであることは間違いありません。

 

しかし、量産で大切なのは上でも述べましたが、


「長い将来にわたって同じものを作り続け、もし何か異常が生じたときにその原因究明に必要なデータを蓄積できているのか」


ということ。


職人的に不具合を解決し続けてしまうと、その職人がいるうちはいいのですが、
その人がいなくなれば不具合が顕著化する、
または現場で抑え込んでしまうために本来解決すべき不具合が見えてこない、
という生産の根幹が揺らぐ事象につながるかもしれないのです。

 

自社ノウハウや機密という言葉を振りかざして生産現場をブラックボックスにしている会社も多いようですが、囲い込めば囲い込むほど問題が生じたときの原因究明が遅れ、
将来的なリスクを含有していることも合わせてご理解いただき、
生産に近い方々も細かいことは別として研究開発の担当者に実情を開示することが求められています。

 

 

次世代の Made in Japan のブランドに向けて

 

Made in Japan は高品質であるというのは諸先輩方の苦労があって今があると思っています。


一時期海外へ出ていった生産拠点も海外の生産コスト上昇もあり国内回帰が進んでいます。


この時に重要なのは、研究開発と生産現場の壁を取り去り、
生産現場での性善説をやめて明文化された要求仕様にのっとって、
研究開発と生産が同じ土俵で議論する。


このような技術の原点に回帰するような考えが、
若手技術者はもちろん、彼ら、彼女らを指導する技術者にも求められていると思います。

 

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