若手技術者の学生時代の学部・学科を考慮した配属を考えたい

公開日: 2026年4月20日 | 最終更新日: 2026年4月19日

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若手技術者の学生時代の学部・学科を考慮した配属について、技術者育成の観点から考えます。

 

 

 

 

 

技術職の採用面接での問いかけ

 

技術者を含む技術職の採用に関する内容は、
過去に何度か取り上げています。

 

 

戦力になりやすい学生を採用するにあたっては苦労したこと、
ならびにそれをどのように乗り越えてきたかを中心に、
具体例を引き出すことにポイントがあることが最重要であることを触れてきました。

 

 

能動的な取り組みと積極性は技術者育成の前提条件ともいえる資質であり、
それを見抜くのが狙いにあります。

 

 

昨今は”採用面接”というキーワードを入力した際に検索サイトの冒頭に出てくるAIの回答でも類似の言及がなされていることから、
採用時の取り組みとして一般的なものとなっていると感じます。

 

 

 

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鉄板ともいうべき問いかけの一つが学部・学科と選択理由

 

前出の内容に加え、恐らく多くの採用面接の場で理系学生に対して行われる問いかけの一つが、

 

「学部・学科と選択理由」

 

ではないでしょうか。

 

 

 

自分自身の場合、学部は工学部の高分子工学科、修士は総合理工学研究科の化学環境学専攻でした。

 

「高分子工学を選んだ理由は、身近な素材であるポリマー(高分子)の研究に携わりたかったこと、
化学環境学専攻に移った理由は前出のポリマーに関する研究で得られ知見に基づいた応用研究に取り組み、
地球環境の改善に貢献したいと考えたからです。」

 

 

恐らく就職活動中の自分は上記のようなことを答えていたと思います。

 

 

 

学生時代は全員が目的意識をもって学部や学科を選んでいるとは限らない

 

前出の自分自身を例とした発言について、もう少し本音の部分を補足したいと思います。

 

 

まず触れておかなければならないのは、

 

「後付けの部分も相応にある」

 

ことです。

 

 

 

自分の将来像を描き、それに向けた学部や学科の選択をできる学生もいます。

 

このことは授業における学生や、
様々な企業における若手技術者との会話で理解しています。

 

 

しかし振り返って自分自身がそうだったかというと、もっと”あいまい”だったと記憶しています。

 

 

 

つまり”何となくの流れ”で学部や学科を選んだという学生も一定数おり、
少なくとも自分自身はどちらかと言えばそちらの集団に入っていました。

 

 

  • 物理や生物より化学の方が好きだった
  • ○○先生の研究室に行ってみたかった
  • ○○君、○○さんと一緒に○○学科に進みたかった
  • ○○の学科の授業は楽しいものが多い、単位を取りやすい

 

細かい表現の違いあれど、
上記のような動機(の一部)で学部や学科を選ぶことは、
恐らく自分の知る限りでは珍しいことではないと思います。

 

 

 

すなわち採用面接を受けるすべての理系学生が、
目的意識をもって学部や学科を選択しているとは限らないのです。

 

 

 

 

 

学生時代の学部や学科を採用後の配属検討材料に取り入れるべきか

 

「若手技術者の学生時代の学部・学科を考慮した配属を考えたい」 場合、 「学生時代の学部・学科にこだわり過ぎず、学生時代の取り組みと少し離れた領域の仕事をさせることで、 評論家ではなく実践しかない環境に置く」

 

 

ここで今回の本題である、

 

「若手技術者の学生時代の学部・学科を考慮した配属を考える」

 

の話に入っていきます。

 

 

 

学生時代の専門性がそのまま活用できる技術業務は多くない

 

これは何度か述べていることですが、
大学(院)は学術界で活躍する研究者を養成する機関であり、
産業界で働く技術者を育成するところではありません。

 

 

本点は過去に何度か述べたことがあります。

 

 

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第31回 理系学生時代のインターン経験は若手技術者に必要か? 日刊工業新聞「機械設計」連載

 

 

そのため、産業界に属する企業において求められることを、
大学(院)で”直接的なスキル”として習得することは困難である上、
そもそも産業界やそこに属する企業がそのようなことを求めてはいけません。

 

 

 

大学(院)はあくまで学術界を見据えた探求を行う基本姿勢を体感させる場でなければなりません。

 

 

そのため大学で学んだことを企業で活かしてほしい、
という考えは産業界の押し付けになりかねず、慎まなければならないのです。

 

 

 

大学(院)での学部や学科といった専門性に関する情報は、
配属という意味でいうと当然一助にはなりますが、
決定的な要素にはなりません。

 

 

企業側で考えるほど、理系学生の学部・学科は配属後の活躍有無に影響を与えないというのが、
様々な技術者を指導してきた経験から言えることです。

 

 

 

それよりも当事者意識や柔軟性、そして積極性の方がはるかに重要で、
さらに欲を言えば文章作成力に裏付けられた論理的思考力があれば、
技術者としての成長スピードはおのずと向上していきます。

 

 

 

大学(院)では産業界の求める”直接的なスキル”は身につけにくいが、”間接的”でかつ”本質的なスキル”を身につけられる貴重な期間

 

理系学生が大学(院)、特に4年生(4回生)や修士、博士の課程で体感する研究室生活は、
技術者育成の観点からも大変重要な経験を蓄積する貴重な場となります。

 

 

そこで身につけられるスキルは前出の産業界の求める”直接的なスキル”ではありませんが、
間接的である一方、実は技術者としての”本質的なスキル”を習得する場となります。

 

この辺りは最近も連載で詳細を解説しています。

 

 

※関連連載

 

第31回 理系学生時代のインターン経験は若手技術者に必要か? 日刊工業新聞「機械設計」連載

 

 

以上のことを踏まえると、
若手技術者の配属を考える際、
彼ら、彼女らの出身の学部や学科をそれほど考慮する必要はない、
というのが技術者育成の観点からの結論になります。

 

 

 

 

 

学術界を前提とした若手技術者の知識は成長の阻害要因となる

 

これは様々な企業において若手技術者を指導していて感じるところですが、
意外にも配属と学生時代の専門性が近い若手技術者ほど伸び悩む傾向にあります。

 

 

より正確には、

 

「早い段階で上げ止まり、更なる成長に向けた柔軟性を失う」

 

という表現になります。

 

 

 

前出の通り柔軟性は技術者育成で重要な資質の一つになります。

 

 

 

知識がある故に評論家になる

 

学生時代の知識が就職後の技術業務に合致性があると、
若手技術者は専門性至上主義をいかんなく発揮しながら”評論”を行うようになります。

 

 

大学(院)で習得した評論に使う知識が、
産業界における研究開発を中心とした技術業務に適したものは少ないはずで、
上記のような若手技術者の評論は恐らくその多くが”的外れ”のものとなると想像します。

 

 

そして”技術業務の実践という意味では違う”とリーダーや管理職が指摘し、
それに対して”わかりました”と若手技術者が発言したとしても、
心のどこかでは

 

「自分はこの分野では知見がある。リーダーや管理職の言っていることは違うと思う。」

 

と一人で殻に閉じこもりながら、評論(とその姿勢)を継続するはずです。

 

 

 

当の本人が正しいことを言っていると信じて疑わない故の現象です。

 

 

 

若手の時期は技術者育成で最も伸びる時間

 

問題は上記の評論を続けることで、

 

「若い時間を浪費してしまう」

 

ことにあります。

 

 

 

若手技術者が評論を継続したところで”知っている”というレベルの知識ベースでの話であることに変わりはなく、
実践力を伴う知恵とはかけ離れています。

 

 

このような前進の無いことを繰り返して時間を使ううちに、
若手は気が付くと中堅になり、
そこから加速度的にベテランの技術者へと駒を進めます。

 

 

 

若手というのは技術者育成で最も伸び盛りの気力、体力、
そして繰り返しになりますが柔軟性を兼ね備えた貴重な時期にあたります。

 

 

この時期を無意味な評論で浪費することでどのような技術者へと変質していくかは、
過去のコラムをご覧いただくのが早いと思います。

 

 

※関連コラム

 

技術者にとって回避したい 丸投げ 思考

 

 

 

リーダーや管理職はもちろん、若手技術者自身もそのような未来を望まないでしょう。

 

 

 

 

 

知識のない技術領域の方が産業界の求めるスキルを若手技術者が習得しやすい

 

ここまで述べてきたことを踏まえ、若手技術者の配属と出身校の学部や学科について考えます。

 

 

結論から言うと、

 

「学生時代の学部・学科にこだわり過ぎず、学生時代の取り組みと少し離れた領域の仕事をさせる」

 

となります。

 

 

大きくかけ離れると難しいかもしれませんが、
業務の1、2割くらいは大学(院)で学んだことで、
それ以外はあまり予備知識がない、といったバランスが配属には良いと思います。

 

 

 

知らないとなれば、開き直って実践するしかないと若手技術者自身が気が付く

 

知識が無ければ、まずはリーダーや管理職を中心とした上司からの指示に基づき、
技術業務をとりあえず前に進めるしかない状況となります。

 

 

予備知識もないので、評論もできないでしょう。

 

 

このように、

 

「とりあえずは、言われたことをきちんとできるよう取り組もう」

 

と”技術業務の実践”に重きを置く思考に切り替えることができれば、
そこで得られる経験は早い段階で知識から知恵へと変化を始めます。

 

 

 

これこそが技術者育成の出口で重要な”実践力の醸成”に直結します。

 

 

技術的な議論は大事ですが、評論では技術者の普遍的スキルは伸びません。

 

 

産業界で求められるのは論文執筆や学会発表ではなく、
基本的には今目の前にある業務の推進に他なりません。

 

 

それを頭だけでなく体で理解するには、上記の実践経験の蓄積しかないのです。

 

 

さらに言えば若手技術者は議論に時間を使うよりも、
指示されたことを適切に完遂する方が技術者育成という意味で”はるかに重要”です。

 

 

指示事項の理解と求められた着地点への到達という技術業務完遂を通じた関係職場内での信頼関係構築は、
技術者育成の第一歩といえるほど不可欠なものです。

 

 

 

知識のない技術領域の技術業務推進に生成AIは使わない

 

昨今は生成AIに溺れてしまう若手技術者が居ますが、
はっきり言ってしまえば百害あって一利なしです。

 

若手技術者が生成AIに手を出すと、”使われる”側に陥るからです。

 

気が付くと使われているというのが、生成AIの怖いところです。

 

 

生成AIを技術業務で適切に”使う”ことができるには、
当該業務に対する高い視点を維持しながらこの生成AIに適切な指示を出し、
間違いや軌道修正をする必要があります。

 

 

技術業務の”実践経験”が浅い若手技術者には絶対にできないことです。

 

 

 

知らない業界だから生成AIで知識を補完しようという考えから始まり、
専門性至上主義の欲求を満足させる情報の入手に自己満足し、
結果として本質的な成長がほとんど見られない若手技術者は自分の知る限りでも相応数います。

 

何より、過去にも述べた通り”孤立化”するのが、
技術者としての成長に対する致命的な問題といえます。

 

 

※関連コラム

 

生成AIで得た技術的専門知識の妄信と依存で孤立化する若手技術者

 

 

 

技術業務全体のうち1、2割くらいはわかることが若手技術者のモチベーション維持に役立つ

 

いっそのこと全く無関係な技術業務を行う部署に若手技術者を配属させる、
という考えもあるかと思います。

 

 

しかし技術者育成の観点から言えば、
技術業務全体のうち1、2割くらいは若手技術者の学生時代の専門と関連性を持たせることも重要です。

 

 

理由はひとえに

 

「若手技術者のモチベーション維持」

 

にあります。技術業務の成果を得るという観点ではありません。

 

 

 

もし全く無関係の部署に配属されれば、若手技術者の中には、

 

「自分が大学(院)で学んできたことは何だったのだ」

 

といったことを考える者も少なくありません。

 

 

 

しかし業務のほとんどは無関係でも、
その一部でも自分が学んできたことを関連があれば、

 

「自分が学んできたことを活かせている」

 

という実感を若手技術者は持つことができるでしょう。

 

 

これは自尊心の低い若手技術者にとって極めて重要な自己肯定の出来事です。

 

 

技術者育成は長丁場です。

 

 

この長丁場を進み続けるには若手技術者のモチベーション維持は大変重要であり、
本点を配慮することがリーダーや管理職に求められます。

 

 

 

年長者の技術者が若手技術者の技術業務推進の伴走をし、技術業務完遂の意味を体感させる

 

上記の内容を念頭に、若手技術者の学生時代の専門と1、2割程度は関係があり、
残りは無関係な部署に配属させたとします。

 

 

ここで重要なのは、伴走者をつけることです。

 

 

 

上記では

 

「開き直って実践するしかない」

 

という若手技術者の心の変化が起点になっていますが、
彼ら、彼女らが全員そのような心理になるとは限りません。

 

 

 

そこでリーダーや管理職に実践いただきたいのは、
年長者の技術者を伴走者として設定することにあります。

 

 

困ったときに相談できるという環境を整えて孤立を防ぎ、
また適宜技術業務推進のやり方を背中で見せるのが伴走者の役割です。

 

 

伴走者の支援を受けながら、若手技術者に

 

「技術業務完遂を体感させる」

 

ことが肝要です。

 

 

 

これを繰り返すことで実践力の伴う知恵の意味と、
大学(院)で学んだことを産業界の企業に属する技術者としてそれをどう活用するかを、
若手技術者が自分なりに理解できるようになってきます。

 

 

 

 

 

最後に

 

若手技術者にとって入社後の配属は大きな節目です。

 

 

先のことをきちんと考える若手技術者ほどその影響は大きく、
時にそれはモチベーション維持可否にもつながるレベルとなります。

 

 

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研究開発系の若手技術者のリアリティー・ショックを緩和するには

 

 

しかし若手技術者を伸ばしたいと考えるのであれば、
むしろ学生時代の専門性にこだわらない配属判断が重要です。

 

 

知識がない状態から実践経験で成長するという、
産業界での技術者育成の意味を理解させる一つのやり方だからです。

 

 

リーダーや管理職は若手技術者が孤立化しないよう伴走者をつける支援をしながらも、
評論では何もできないという企業における技術者の役割を体感させることが肝要です。

 

 

 

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