自分は精一杯頑張っていますと主張する若手技術者
公開日: 2024年11月18日 | 最終更新日: 2024年11月18日
タグ: マネジメント, メールマガジンバックナンバー, 技術者の上司とは, 技術者の自主性と実行力を育むために, 技術者人材育成, 甘え, 自信が無い, 自尊心
若手技術者に技術データの取得を指示したが、指示と異なるアウトプットを出してくる。
実験や試験の主目的を活字を用いて若手技術者に伝えたが、
本人の興味のある業務部分にこだわってしまい技術業務がスケジュールに対し、
大幅に遅れが出ている。
若手技術者に技術調査を行わせた結果として出てきたアウトプットが、
Webページのコピーや生成AIの作成した文章と大差なく、
本人なりの要約や意見が無い。
上記のような事象を踏まえて、若手技術者に課題や問題を指摘すると、
「自分は精一杯やりました」
と主張する。
そのような場面に直面した、もしくは見聞きした技術者、
並びにリーダーや管理職の方はいないでしょうか。
今日は自分は精一杯やっていると主張する若手技術者の対応について考えます。
何故、自分は精一杯やったと主張するのか
リーダーや管理職がまず理解すべきは、
自分なりに最善を尽くしたと主張する若手技術者の心理です。
ここにはいくつかの要素が含まれますが、
代表的なものを2点ほどお伝えします。
自信が無く不安を常に感じている故の自尊心の低さ
多くの若手技術者が大なり小なり持っている要素です。
学生時代の経験から教科書の内容を勉強すれば試験で高得点を取れる、
という暗記を主とした教育体制で評価されてきた、
もしくはそれが評価されるべきと信じている若手技術者に多いのが、
自尊心の低さです。
なお、暗記型の教育方法を否定する情報が散見されますが、
その対極にあるといわれる思考型教育も、
結局のところ暗記型教育の上に成立していることを踏まえれば、
暗記型がすべて悪というのは妥当とは言えないと考えます。
この辺りは以下のようなコラムでも取り上げたことがあります。
※関連コラム
教育の善悪をここで議論するつもりは有りませんが、
前提として本点を理解することが重要です。
自尊心の低さを隠すため最善を尽くしたと防衛線を敷く
前述の背景もあり、技術的業務という実務段階になると思ったように物事を進められない、という困難に若手技術者は直面するでしょう。
自分との戦いで済んだ学生時代とは異なり、
意見、年齢、性別、国籍、場合によっては組織さえ異なる人たちと”協業する”ことは、
学生時代にはあまり経験がないからです。
そういう意味では、部活やサークル、アルバイトというのはそれに近い経験が積めるものの一つといえます。
ただし、お金をもらっている以上プロとしての活動と成果が求められるのは、
それらの経験より一歩踏み込んだ行動が求められるのです。
結果としてうまくいかないことに直面すると、
若手技術者はますます自信が無くなり、不安になります。
その上、リーダーや管理職から自分ができていないことを指摘され、
しかも図星だとすると堪えるでしょう。
これ以上、自分の自尊心を傷つけられたくない。
その心理が
「自分は精一杯やっています」
であり、その後に続くのは言葉に出しませんが、
「これ以上言われるのはつらいので、もう言わないでください」
なのです。
自分に優しくしてもらいたいという”甘え”
意外に思うかもしれませんが、立派な社会人である若手技術者の中には、
年齢や立場不相応の甘えの心理を有する方々もいます。
様々な背景があるようですので一概には言えませんが、
元々有している性格や経験に加え、
その年齢に達するまで周りからどのように扱われてきたのか、
が強く影響を与えていることが分かってきています。
「これまで自分はそれほど要求されたことはない」
ので
「優しくしてください」
といった思考が本音の部分に該当するとの理解です。
過去を見て現在や未来を見ない
このような甘えを示す若手技術者に共通するのは、
「今現在、外から期待されている自分を理解する視点が不足」
していることがほとんどです。
自分の過去に強い執着を持っており、
今この瞬間に置かれている立場を見ようとしないようです。
ここは個々人に関連付けられた部分ですので、
一朝一夕で変えることが難しいため、
リーダーや管理職は否定する、変えようとするのではなく、
前述のような前提を”理解する”のが第一歩です。
ここまで述べてきた若手技術者の心理を理解したうえで、
リーダーや管理職は質の不足するアウトプットに善処したと主張する若手技術者に、
どのように対応すべきでしょうか。
一旦若手技術者から距離を置く
結論から先に言うと、
「若手技術者から一度距離を置く」
ことがポイントです。
若手技術者育成の大前提である放置はご法度という中で、
今回はあえてそれを選択いただくのが最良です。
ただし、いくつか注意すべき点もあります。
距離を置くのは善処したと若手技術者が主張した業務範囲に限定
必死に育てようと思い、しかるべき助言や指導を行ってきたにもかかわらず、
期待値以下の内容で精一杯やりましたと言われれば、
誰でも怒りや諦めの心理が芽生えるでしょう。
リーダーや管理職も人間です。
致し方ない部分もあるのです。
しかし感情に身を任せて、
その一件で若手技術者を”見放す”というのは絶対にやってはいけません。
あくまで距離を取る、つまり指導をやめるのは、
精一杯やりましたと若手技術者が主張する業務に”限定”してください。
合っているか間違っているかは別として”精一杯やっている”のであれば成長できる
前述の対応の背景にあるのは、
自分なりにでも精一杯やっているのであれば、
ある程度放置しても成長できるという原則があるためです。
よって、若手技術者と距離を置くのは突き放すのではなく、
「任せてみる」
という表現に近いといえます。
相談されたら拒否するのではなく、自分なりにやってほしいと伝えたうえで”最低限の助言”を与える
仮に若手技術者と距離を取ると決まった業務であっても、
もし若手技術者から”相談”された場合、
リーダーや管理職は拒否をしないようご注意ください。
まず前提として、
「とりあえず、お前が思うようにやってみろ」
と伝えたうえで、必要に応じて”最低限の助言”を行うのがポイントです。
このように圧縮された助言は、若手技術者にとって大変貴重な情報となるでしょう。
精一杯やっていなかった、甘えがあったというのは本人が一番わかる
これまで色々と指導してくれたリーダーや管理職が、
限定された業務範囲とはいえ、何も言ってくれなくなると、
若手技術者は否が応でも自分と向き合わなくてはいけなくなります。
自分で出したアウトプットは自分自身への外からの評価に直結します。
リーダーや管理職に確認してもらっていれば、
何かのミスや問題があったとしても(内心は)その人たちのせいにできるでしょう。
しかしそのような確認や承認作業が無ければ、
それは自らの力量そのものの評価になるため、
言い訳ができないのです。
試行錯誤を通じて自らを客観的に見つめることは若手技術者成長の要
今まで若手技術者にとって煩わしかった傘が無くなると、
頭から直射日光を浴びる。
それは暑く、苦しい。
自分なりに帽子を作るなりして影を作る、
保冷剤で頭を冷やすといった対策が必要。
自ら試行錯誤して技術的業務を進めるにあたって、
若手技術者はそのような感覚を覚えているかもしれません。
これこそが自尊心の低い、甘えを有する若手技術者にとって、
最も必要な経験です。
何故ならば、
「この”試行錯誤”をやりきることが、本当の意味で精一杯やったことだから」
です。
今までの自分には何かが足りなかった。
若手技術者自身がそのようなことに気が付くのであれば、
距離を取ったことは大成功といえるでしょう。
技術者育成の観点で最も必要なものは、
時にこのようにして”若手技術者自身で見つける”しかないのです。
本コラムに関連する具体的な技術者育成支援の例
当社の技術者育成コンサルティングでの対応となります。
若手技術者のOJTでの育成で、
リーダーや管理職が若手技術者への指導で感じられる課題をヒアリングします。
その中で例えば今回ご紹介したような事例が生じている場合、
リーダーや管理職に対して、若手技術者に対する接し方を、
技術的業務内容も踏まえながら具体的な接し方を提言します。
さらに若手技術者だけでなくリーダーや管理職側にも課題がある場合、
リーダーや管理職がどのような対応をすべきかについて、
適宜助言や提言を合わせて行います。
まとめ
自分の限界を述べる若手技術者は、
安全地帯を自分で構築しているとも言えます。
当の本人は楽なのでいいかもしれません。
しかし若手技術者はいつまでも若手というわけにはいきません。
そして自分が防衛線を敷くことで日々過ごしながら年齢を重ねると、
自身がリーダーや管理職になった際、
自分の下に入った若手技術者からの信頼を獲得することは困難でしょう。
またはそのような職位を得られず、窓際に押しやられる可能性もあります。
そのような人生もありだと答えるような若手技術者は、
育成以前に、そもそも戦力にならないので採用してはいけません。
多くの若手技術者は、大なり小なり自身の成長を渇望しています。
彼ら彼女らの自尊心の低さや甘えをリーダーや管理職が感情を抑えて理解し、
同時にそのことを若手技術者自身にできる限り早く理解させて成長を促すため、
距離を持つことは技術者育成の本質の一つといえます。
ご参考にしていただければ幸いです。
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