「考える時間が無い」と主張する技術者

どのような担当であっても技術者に求められることは、何かしらの技術的な発見、改善、進展を実現することにあります。

 

これを生業とする担当業務としてよく研究開発が挙げられますが、
決してこのようなものに限りません。

 

 

品質保証、製造や生産、技術営業であっても、冒頭に述べたことを求められると思います。

 

 

 

しかし、そのような業務に直面する際、技術者の中には

 

 

「考える時間が無い」

 

 

ということを主張する方々が居ます。

 

 

 

 

そこに合わせてよく述べられるのが、

 

 

「忙しい」

 

 

という言葉です。

 

 

 

 

上記の発言に加え、何より問題なのは、

 

 

「考える時間が無い」そして「忙しい」

 

 

から、

 

 

「技術的な発見、改善、進展を実現する仕事が遅れる・進まない」

 

 

という結果に結びつくケースが多いことです。

 

 

 

 

今回はこのような課題について考えます。

 

 

 

 

 

技術的な発見、改善、進展を実現する業務とは

 

「考える時間が無い」という技術者に求められるのは能動的な時間捻出

Photographed by Brett Sayles

 

 

様々な種類の業務がありますが、最も多いものの一つが

 

 

「今まで明確な記録や結果が示されていないことを明らかにする技術評価」

 

 

です。

 

 

 

「技術評価」というと高尚な業務という印象を受ける方もいますが、

 

 

・化学→簡単な合成実験

 

 

・材料→入手材料の力学試験

 

 

・解析→シンプルなモデルでの線形解析

 

 

・機械加工→新しい刃物を用いた加工

 

 

・検査→加工した製品の形状の検査

 

 

・薬学→合成したもののFT-IR等の簡単な構造分析

 

 

 

 

といった、

 

「各領域の技術者にとってはごくごく当たり前の日々の業務も立派な技術評価の連続」

 

です。

 

 

 

つまり、研究開発を生業とする技術者で組織される研究所のような事業所を抱える企業だけでなく、
顧客の依頼で仕事を行う請け負いを主とした企業であっても、

 

 

「技術者が行う日々の技術的な業務は技術評価の宝庫」

 

 

といえるのです。

 

 

 

 

技術職として雇われている時点で、技術評価と無縁な仕事だけに従事している技術者は基本的に少数派といえると考えます。

 

 

 

 

 

 

定常業務を俯瞰的にみる視点の高さは技術者の生命線

 

特に製造や生産に近い業務をしている技術者や、
特定の請負業務に終始している技術者の方の多くは、

 

 

「自分の頭で考える」

 

 

ということをあまり求められないようです。

 

 

 

効率よく、求められたアウトプットを確実に出してほしい、
という期待がその背景にあるのかと想像します。

 

 

 

そのため上記のような役回りに徹することが、
企業組織として求められているのでしょう。

 

 

 

特に若いうちからそのような環境で働き続けると、
それが当たり前となる技術者も一定数います。

 

 

 

その一方で決まったことだけをやればいい等、業務環境がどうあれれ、
自らの創意工夫で何かしらの技術的な発見、改善、進展を実現する視点で取り組む技術者も居ます。

 

 

当社の顧問先の中にもそのような方はいます。

 

 

 

母数が少ないため一概には言えませんが、
今のところ学歴、性別、地域等の要素は、
上記のような優れた視点で業務を行うことと相関は無い様であると感じてはいます。

 

 

一点興味深いのは、唯一「年齢」だけは相関がありそうということです。

 

 

 

やはり、ある程度若い方であれば効率よく決まったことを行うという仕事の経験しかなくとも、
上記のような視点の必要性を説明することで開眼する方がいます。

 

 

 

技術者育成の一般論でも年齢が重要なファクターであると述べるのには、
このような「変化に対する柔軟性」という観点からの理由があるのです。

 

 

 

・関連コラム

若手技術者人材育成に適した時期

技術者の育成や教育は何歳くらいまでにきちんと始めるべきかわからない

 

 

 

 

 

何故技術者は考える時間が無いというのか

 

技術的な発見、改善、進展を実現するという視点での技術業務推進を阻害する

 

 

「考える時間が無い」

 

 

という技術者の発言の裏にある心理を考えてみます。

 

 

 

まずベースにあるのは

 

 

 

「技術的な発見、改善、進展を実現するという視点を持てないのは自らの能力が足りないのではなく、時間が足りないためである」

 

 

 

という考え方です。

 

 

 

つまり技術者固有の専門性至上主義によってもたらされる自尊心の低さから、
自らの能力不足という事実を認めたくない、そしてプライドを守りたいという思考です。

 

 

 

私個人としては何をもって能力を考えているのかよくわかっていませんが、
技術的な発見、改善、進展を実現するという視点を持てないことは、
能力不足であるという自己判断に直結させる傾向が技術者には多く見られます。

 

 

技術者は時間が足りない、忙しいという前に、

 

 

「そのような視点を持ったことは無いので、それを意識してやりたいと思います。どのようなことに気を付けたらいいでしょうか。」

 

 

と、一言いえばいいだけだと思います。

 

 

 

 

この一言を言えないが故に、結果的に技術的な発見、改善、進展を実現するという視点を獲得できないまま年齢を重ね、
以下のようなコラムで取り上げるような技術者への変貌していってしまうのです。

 

 

 

 

・関連コラム

技術者にとって回避したい 丸投げ 思考

これは 自分の仕事ではない という言動が若手技術者に見える

 

 

 

 

技術的な発見、改善、進展を実現するという視点を持たないことは、
決して能力不足ではなく、今まで気が付いていなかったか、
気がついてもできないのであれば向いていないという適正だけの話なのです。

 

 

ここをまず技術者が受け入れられるよう、リーダーや管理職が納得させることがポイントかもしれません。

 

 

 

 

 

技術的な発見、改善、進展を実現するための思考は業務時間以外でもできる

 

まず、以下の動画を見ていただければと思います。

 

 

思い当たる方は多いのではないでしょうか。

 

 

考えるということは、むしろ仕事から離れた時の方が向いているのです。

 

 

 

つまり、考える時間が無いという技術者に伝えるべきことは

 

 

 

「むしろ、会社の外の方が考えやすいのではないか」

 

 

 

ということです。

 

 

 

 

結論から言うと、上記が技術的な発見、改善、進展を実現するための思考をするための答えになります。

 

 

 

どれだけ業務時間が短くとも、またやることが多くとも、
社外であれば移動時間含めて短くとも個人の時間はあると思います。

 

 

ここの時間を活用するという発想の転換が技術者に求められるのです。

 

 

 

 

 

柔軟な思考時間捻出可否は、精神的な余裕がある前提であれば当事者意識に強く依存する

 

仮に上記のような思考時間捻出の話をした際、

 

・自分には家族との時間があり、そのような時間が無い

 

・仕事を会社外に持ち出したくない(物理的にではなく、思考の部分という意味で)

 

といったことを述べる技術者が多いのも事実です。

 

 

 

技術者に精神的余裕があるか否かを見極める

 

ここで一点注意があります。

 

リーダーや管理職がまず理解すべきは、

 

 

「精神的な余裕が無いため、本当にできない」

 

 

という技術者もいるということです。

 

 

 

この精神状態は、会社での人間関係や業務推進能力不足による不安などの社内の話に加え、
家族や健康問題等、社外の要素が関係する場合もあります。

 

 

それ以外にも様々な要因、または複合要因によって本当にやりたくてもできない技術者もいます。

 

 

よって、精神的余裕の有無を見極めるということが第一歩です。

 

 

もちろん精神的余裕が有り余るような技術者はいません。

 

 

あくまで技術者個人がコントロールできる範囲か否かを、
話し合いを通じてリーダーや管理職が見極めることが肝要です。

 

 

 

 

技術者の精神的余裕があるようであれば、当事者意識の欠落の可能性が高い

 

次に、技術者の精神的余裕に顕著な問題が無いという判断ができた場合について述べます。

 

 

時間が無い、忙しいという発言をする技術者に圧倒的に欠けているのは、

 

 

 

「日々の技術業務に対する当事者意識」

 

 

 

です。

 

 

 

どこかで他人事であり、誰かが何とかしてくれるだろう、自分はそこまでやらなくていいだろう、
といった考え方がとこかにあるのです。

 

 

表現の方法を変えると、

 

 

「仕事をやらされている」

 

 

と感じている側面もあるかもしれません。

 

 

 

当事者意識の醸成については、
担当する技術者とリーダーや管理職との関係という個人的な部分に該当するので、
万能な回答手法を示すのは極めて困難です。

 

 

 

ただし、本質的な問題は当事者意識の欠落にあることを理解することが、
技術者を部下として抱える方々にとって大変重要であり、
ここの課題をどのように乗り越えるのかをリーダーや管理職が熟考することがポイントとなります。

 

 

 

 

 

 

いかがでしたでしょうか。

 

 

技術的な発見、改善、進展を実現するということは、
技術者にとって大変重要な使命であり、
そのような視点こそが将来的なその技術者自身の選択肢を広げることにもつながっていきます。

 

 

 

技術者には無意味なプライドへの執着を捨てさせ、
まずは会社外でも技術的な発見、改善、進展を実現するための思考を続けられるか否かの自己検証を行うよう仕向けることが肝要です。

 

 

適性があれば、このような技術者をリーダー以上に抜擢する、
もしくはマネジメントを行うような業務と無関係なエキスパートとして育成する、
といった技術者育成戦略が必要となります。

 

 

そして忘れてはいけないのは、
このような取り組み以前としてそもそも論として業務に対する当事者意識が欠けていないか、
ということを点検することがリーダーや管理職に求められます。

 

 

 

技術戦略支援事業

⇑ PAGE TOP