熱量が足りないと見える若手技術者に実践させたい越境学習

若手技術者の越境教育は学会の講習会で

 

 

熱量が足りない(モチベーションが低い)ように見える若手技術者について悩まれているリーダーや管理職の方はいらっしゃらないでしょうか。

 

若手技術者の方々の本音は別としても、外から見て元気が無いように見えるというケースはどこの職場でも起こりうる事だと思います。

 

 

今回はこのような状態を改善するために、技術者育成の観点からリーダーや管理職が取り組むべきことについて考えてみたいと思います。

 

 

 

 

 

若手技術者のコミュニケーション力は二極化

 

最近の若い人は….、というのはある程度年齢を重ねれば誰でも言いたくなる言葉だと思います。

 

恐らくそのような発言をする、考え方をする方々も若いころはそのように言われてきたに違いありません。

 

 

 

企業での技術者育成指導を通じて感じるのは、本質的な部分は言うほど年齢によって違いはないということです。

 

 

唯一間違いなく言えるのは年齢を重ねる程、技術的な知見という引き出しが多くなる一方、その安全地帯から一歩外に出ようとしない保守的な姿勢になる方の比率が大きくなるということくらいでしょうか。

 

 

このことは私自身も含め、誰でも起こることだと理解しています。

 

 

 

その一因としては、脳の変化といえるかもしれません。

 

 

 

年齢を重ねた技術者や元技術者は保守的になりやすい

 

経験に依存する技術的な考察力や、人間関係の基本となるコミュニケーション力は脳における「結晶性知能」と呼ばれ、これは年齢に依存せずに維持できるとされています。

 

 

その一方で、新しいことを理解する理解力や、物事を考えて前に進める推進力は年齢と反比例して低下するといわれており、これは結晶性知能と対比して「流動性知能」というようです。

 

 

※参考情報

高齢期における知能の加齢変化

 

 

 

このような脳の変化が新しいものに対する許容力を低下させ、過去の知見に依存しやすいという考えを助長するのは当然とも言えます。

 

 

この辺りは過去のコラムでも取り上げたことがあります。

 

 

 

※関連コラム

技術者の育成や教育は何歳くらいまでにきちんと始めるべきかわからない

 

 

 

過去の経験が足かせとなり、現状を画一的にとらえようとしがちになる

 

このような変化に本人が気がつくことは極めて難しく、気がついたらそうなっているというのが多くの年齢を重ねた技術者や元技術者の本音かと思います。

 

 

物事を俯瞰的にみる視野があったとしても過去の経験が支配的になるため、
若手技術者の分析を行うにあたって「最近の若い技術者は….」となるわけです。

 

これ自体が悪いと言っているわけではなく、これはだれしも避けられない変化であるということを理解しておくことが重要だと思います。

 

 

 

自らに思考の癖があるということは、技術者が専門性至上主義という考えの癖があることと同じで、内省する力が有れば思い込みで走り始めるということが減ると期待されます。

 

 

 

尚、内省力は結晶性知能の一つとされており、年齢を重ねても低下しないといわれています。
私個人的には、個々人の取り組みによってはむしろ加齢によって向上すると考えます。

 

リーダーや管理職は結晶性知能をフルに活用し、
最近の若手技術者はと決めつけずにより俯瞰的な視点で物事を考え、取り組むということが求められます。

 

 

本点の理解が後述する取り組みの前提となります。

 

 

 

近年の若手技術者に認められると推測できる傾向は二極化

 

上記のようなことを踏まえた上で実際に異なる企業の技術者を指導している立場から私が言えることは、

 

 

「顕著な傾向ではないが、若いほど二極化は進んでいるように感じる」

 

 

ということです。これは、昔が同だったかは別として主に指導している20代から40代の技術者を比較して感じることです。

 

 

 

例えばコミュニケーション力をみると、人と話すことが苦手な若手技術者、
いわゆる相談せずに実験や試験、技術業務を進める方々もいますが、
きちんと上司とコミュニケーションをしながら仕事を進める若手技術者もいます。

 

 

これらは主に大学卒や大学院卒の若手技術者は「自分で研究を進める」という教育を受けた故の名残とも言えます。
年代というよりも純粋に企業に勤める技術系社員としての経験不足という要因が大きいと考えます。

 

 

 

 

若手技術者の資質以前に、リーダーや管理職の接し方によっても変動することは言うまでもありません。

 

 

 

 

 

熱量が足りない、モチベーションが低い技術者には越境学習が効果的

 

話を題目の内容に向けて進めたいと思います。

熱量が足りない(モチベーションが低い)ように見える技術者に対しては”越境学習”というものが効果的です。

 

 

 

一般的な越境学習は組織をまたいで働くということを意味しますが、技術者の場合、

 

 

 

「民間企業という枠から学術業界への越境をする」

 

 

 

ということが技術者の育成からは効果的です。

 

 

※参照情報

越境学習とは? 導入のメリットや学習効果を高めるポイントを解説

 

 

その理由から考えます。

 

 

 

学術業界では技術的な理論を重要視する

 

技術者育成は一般的な人材育成とは異なる部分が多いということは何度も述べてきました。

 

 

その理由の一つが、

 

「技術には必ず理論が存在し、すべての事象はその理論で示された原理原則の上で成り立つ」

 

ということを技術者が理解することは必須であるためです。

 

 

 

営業やマーケティング、そして人事などにおいても様々な理論が登場しますが、

 

 

「これらは人が相手」

 

 

であるため、理論だけですべてを語ることはできないことが多いはずです。

 

 

 

感情の生き物であり、かつ個々人のばらつきの大きい人を相手にするのはそのくらい難しいのです。

 

 

 

しかし、技術は別です。

 

 

 

感情が介在しないため、極めて客観的な物事の積み重ねで事象を説明することができます。

 

 

この理論の重要さを教えずに、技術者育成は成り立ちません。

 

 

コミュニケーション力、リーダーシップ、目標管理能力等の考え方も当然重要ですが、
技術系社員である技術者である以上、

 

 

「自らの行う技術の理論を理解し、それが全ての不変の土台である」

 

 

ということを理解させることが何より最優先です。

 

 

 

※関連コラム

技術不正やデータ改ざんの恐ろしさ

技術的な理論や評価結果無しに 選択肢から排除 してしまう

第10回 技術者のグローバル化に必要な数学力と文章作成力の鍛え方 日刊工業新聞「機械設計」連載

 

 

 

学術業界では技術的な理論がすべての土台になるというのは「暗黙の常識」となっています。

 

 

 

学会などでの組織をまたいだ専門家同士の議論が当たり前となっているため、
理論というよりどころが無いと質疑応答に対応できないという文化が今も残っているのです。

 

 

 

大学や大学院ではこの辺りは叩き込まれるはずですが、
民間企業ではチームプレーに向けた協調や業務効率向上に対する要求が多くなり、
結果として上記の基本を忘れてしまうのです。

 

 

 

若手技術者の越境教育として最適なのは学会の講習会

 

どのような越境教育を若手技術者に受けさせるべきでしょうか。

 

結論から言うと

 

「学会の講習会」

 

です。

 

 

 

私の理解する”学会の主たる目的”はその学術(技術)業界の発展の促進であり、
その具体的な手段として基礎教育が含まれていると考えています。

 

 

 

そのため、理論基礎内容に関する講習会を積極的に開催している学会も多く存在しています。

 

 

例えば私が所属する応用物理学会や日本材料学会でも以下のような講習会があります。

 

 

※応用物理学会

半導体セミナー

有機光エレクトロニクス

量子コンピューター入門

 

 

※日本材料学会

初心者のための疲労設計講習会

フラクトグラフィ講習会

 

私も最近、顧問先企業での仕事で理論を勉強する必要があると考え、
日本材料学会の「初心者のための有限要素法講習会」というものを受講しました。

 

尚、私自身は大学、大学院の専門は有機化学、高分子化学であるため有限要素法は全くの専門外です。

 

 

その一方で、実務で使わざるを得ない(正確にいうと実務をできる企業や人に指示を与えて前に進める)状況にあることから、理論の裏付けが必要と日々感じていました。

 

 

そのような経緯もあって、実務上で指示していた内容の理論的背景を理解できたこと、
また技術戦略検討の一助になる情報を入手できたのは成果だと認識しています。

 

 

発表される先生方はその道の専門家であると同時に、
ご自身も最前線で研究を牽引されている方であるため情報が常に更新されているのも魅力です。

 

 

 

講演中はもちろん、講演後も先生を捕まえて積極的に質問し、
日々疑問に思っていたことを明らかにできたのは大きな収穫でした。

 

 

 

このような経験を若手技術者がすることで何かしらのやりがいを見出す可能性があります。

 

 

 

 

 

理論の学び直しで新たな発見をするということが知的好奇心を刺激する

 

技術者が有する専門性至上主義は弊害もありますが、知的好奇心という素晴らしい側面もあります。

 

 

越境教育内容を学会の講習会に設定することで、

 

 

「日々の技術業務に関連する技術専門知識を理論的に強化する」

 

 

ということを若手技術者に経験させ、知的好奇心を刺激させることはモチベーションの向上につながる可能性があります。

 

 

 

一般論では、越境教育は異文化理解が目的の一つであるという側面もあるため、
業務内容が無関係でもいいと考えられています。

 

 

しかし、技術者育成という観点での越境教育は

 

「日々の技術的な業務内容に何かしらの関連する技術テーマの学会講習会を受けさせることが前提」

 

となります。

 

 

 

技術者は学んだことを実践することで成長するということを通じ、

 

 

「自ら課題を見つけ、その解決に向けて実行動を起こせる技術者に成長させる」

 

という流れを作ることが不可欠であるため、無関係の技術を上記のような取り組みで習得させようというのは時間やお金の投資の狙いがぼやけてしまう可能性が高まります。

 

 

 

無関係の技術を学ばせても、それを実践する機会が無い(少ない)ためです。

 

 

 

 

 

講習会を受けさせた後は技術者チーム内で発表させるという機会で発信させ、知識の固着と共有を促進させる

 

若手技術者に学会の講習会を受けさせた後は、リーダーや管理職は

 

 

「講習会で学んだことをまとめさせたうえで、技術チーム内で発表させる」

 

 

という機会を設定してください。

 

 

 

聴講するというインプット内容は、発信というアウトプットまでやらせて初めて価値が出ます。

 

 

しかも、それを技術チーム内で発表させることは習得内容の共有という効果も期待できるのです。

 

 

当然ながら一方的に発表させるだけでなく、聴講した技術者達は積極的な質問やコメントを出すことが求められます。

 

 

 

学会の講習会を受けさせることは、元は元気のない若手技術者のカンフル剤を与えるということが主目的であった一方、技術チーム内共有と質疑応答までできればそれは

 

 

「技術チーム内の知見にまで昇華させる」

 

 

ということが可能になります。

 

 

 

 

 

若手技術者個人に対する技術者育成の考えを、技術チームまで拡大できると考えれば、
本取組は価値あるものになると感じていただけるのではないでしょうか。

 

 

 

気持ちの低下がみられる若手技術者を抱える企業において、
是非実践いただきたいと考えます。

 

 

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