若手技術者が隣の席に座る技術者の技術テーマ内容すら全く分からない
公開日: 2026年3月23日 | 最終更新日: 2026年3月23日
タグ: OJTの注意点, メールマガジンバックナンバー, 大学, 技術コミュニケーション, 技術者の普遍的スキル, 異業種協業
今回は若手技術者の他の技術者のテーマに対する理解が深まらないことについて、
技術者育成の観点から対応策を考えます。
隣席の技術者のやっていることさえ分からないことは珍しくない

恐らく技術者を有する多くの企業でも共通する課題の一つとして、
「隣席の技術者のやっていることさえ分からない」
という状態に陥っていることが該当すると考えます。
リーダーや管理職が部下である若手技術者を含めた技術者の業務内容を把握できていないのは問題外ですが、
同じチームとして技術テーマに取り組む技術者同士でも、
お互いに何をやっているの概要程度は把握しておくことは、
技術チームという”組織”として機能させるには重要です。
進捗状況に加えて、本質である技術的議論を行う技術チームミーティングにおける、
当該議論闊達化には技術チーム内の相互理解は不可欠だからです。
加えて技術テーマを推進する主担当者の技術者が病欠や転籍、
場合によっては退職したとなった場合、
当該テーマの停止や再起動の遅れにもつながるでしょう。
ただ残念ながら私の知る限り、
技術チーム内での相互理解不足は、
業界によらない普遍の課題になっています。
抱え込みやすい思考の癖が隣り合う席間にも壁を形成させてしまう
前述の状態が起こる理由は、比較的シンプルではないかと感じています。
その理由と考えられるものの一つが、
「個人プレーを良しとする大学(院)の研究室生活」
です。
学術界での活躍を目指す研究者を養成する大学(院)では、
目の前の原理現象を徹底的に突き詰める姿勢が重要視されます。
学術界の研究者は一人一人が独自のテーマを設定し、
新しい事実の発見やそれを予想する理論の創出等に対する期待を背負う職種です。
本来この姿勢は産業界の技術者にも求められるものですが、
学術界の研究者は上記の取り組みの優先順位が極めて高く、
チームでの連携は相対的にその順位が低下し、個人プレーを否定されることはあまりありません。
学術論文のHPに基本理念として必ず書いてあるものは投稿者である個々の研究者の成果周知では”なく”、
「関連する業界の発展に貢献する」
という趣旨の文言です。
これを行うためには、周りと連携するよりも唯一無二の存在となることが求められており、
だからこそ大学(院)の研究室生活では結果的に個人プレーが黙認される(場合によっては推奨される)雰囲気となるのです。
私個人の見解として、これは至極当然であり、
大学(院)が産業界に歩み寄る必要性は全く感じておりません。
大学(院)はあくまで学術界で活躍する研究者を育成するという姿勢を貫くべきです。
この辺りは過去に何度かコラムで述べたことがあります。
※関連コラム
研究開発系の若手技術者のリアリティー・ショックを緩和するには
異業種技術協業は製造業企業の生き残りに重要な戦略の一つとなっている
これまで何度か述べている通り、
技術を強みとしたい企業の戦略は大きく分けて2つあると考えています。
既存技術の徹底的な磨き上げ
一つが既存技術を徹底的に磨き上げることです。
長い時間をかけて培ってきた技術をさらに高め、
技術競争に挑む戦略です。
どれだけ技術的なトレンドが変化したとしても、
技術の本質は変わらないという原則に則り、
コア技術を徹底して鍛えることに注力します。
既存技術を磨き上げていくと、
必然的に技術の高さだけでなく、
それに付随する裾野(すその)が広がります。
これがその企業の技術的な価値を高め、
同時に靭性(粘り強さ)を高めることとなります。
当社の顧問先の多くが自社技術は汎用的であるとみる一方、
第三者目線で見るとかなり特殊であることも珍しくありません。
このようにして、目の前にある貴重な技術を分かりやすく伝えることも、
当社の技術者育成を通じて企業に貢献する方向性の一つとなっています。
※当社関連事業
異業種技術協業による新技術創出と関連する技術者の普遍的スキル
もう一つが異業種技術協業です。
これは既存の自社技術を高めることを徹底しながらも、
一見無関係な技術を取り入れることで新技術を創出する戦略です。
これは既存を組み合わせることで新しい付加価値を生み出すという意味で大変重要な戦略ですが、
実行に移すには取り組む技術者の”とある力量”を要求する難しさがあります。
その力量は技術者の普遍的スキルの一つである、
「異業種技術への好奇心」
です。
現場の技術者たちが新しいものをやってみようと思わなければ多くが受け身で終わり、
異業種技術協業が能動的な取り組みとして機能することはないのです。
異業種技術への好奇心については、
過去に何度か取り上げています。
※関連連載
第11回 技術的な飛躍に不可欠な異業種技術への好奇心 日刊工業新聞「機械設計」連載
若手技術者の頃は隣席の技術者という異業種技術に興味を持てる黄金期
隣席の技術者のやっていることに興味が持てなくなるのは、
技術業務に関する悪い意味での慣れに加え、
「技術者自身が年齢を重ねる」
という時間の流れに伴う思考回路の変化に原因があります。
例えば中堅やベテランの技術者に、
周りの技術者のやっていることに興味を持つべきだ、
と言ったところで表面的な応答に違いはあるにしても、
- – あの人はまたあんなこと言っている。適当にあしらっておこう。
- – 自分は自分のペースでやろう。
- – これ以上、無駄な仕事を増やすのはいやだ。
といったことを内心で考えていると想定するのが妥当でしょう。
それに比べて若手技術者は違います。
若いうちに周りに興味を持たせることが重要
専門性至上主義から見れば絶対的な悪と感じる若手技術者も多いようですが、
「知らない」
ことは異業種技術への好奇心にとっては、
「”最強”の武器」
です。
技術的な知識も少なく、知恵に至ってはほとんどない若手技術者のうちに、
「隣席の技術者のやっていることを理解することは”当たり前である”」
という考えを植え付けるのです。
これは技術者の普遍的スキルの一つである、
異業種技術への好奇心を持たせる一手法であると考えます。
若手技術者に対して強制的に隣席の技術者の技術テーマに触れさせる機会を持たせる
この流れに若手技術者を乗せるには、
「”強制的”に隣席の技術者の技術テーマに触れさせる機会を持たせる」
ことが重要です。
具体的な取り組みを次に述べます。
無理のない頻度で他の技術者の技術テーマ内容について代理発表させる
前述の取り組みを一言でいえば、
「隣席を含む、他の技術者の技術テーマ内容について代理発表させる」
ことです。
発表する機会の一例は、月に一回の技術チームミーティングです。
以下では、これを例に述べます。
まずは留意すべきポイントを記述します。
頻度は一年に数回程度
この手の取り組みは若手技術者に大変労力がかかります。
同時に、若手技術者に後述する自らの技術テーマの情報を伝える技術者にも負担となります。
そのため高頻度で行うよりは年に数回、
多くても四半期に一回程度でいいでしょう。
継続することが重要ですので、
無理をしてはいけません。
中堅以上の技術者の技術テーマの進捗状況を若手技術者に発表させる
前出の技術チームミーティングを例にした場合、
「中堅以上の技術者の技術テーマの進捗状況を若手技術者に発表させる」
ことが、他の技術者の技術テーマ理解に大変効果的です。
当然ですが若手技術者は仮に隣の席であっても、
中堅以上の技術者の技術テーマのことはほとんどわからないでしょう。
そのため、いきなり若手技術者に情報を渡して”やっておいて”と丸投げするわけにはいきません。
発表資料作成自体は中堅技術者が行いますが、
その内容を予め若手技術者にどのように発表するのか伝えておくのです。
必要に応じた若手技術者への技術の補足説明も必要でしょう。
若手技術者にとって他の技術者の技術テーマに関する発表は簡単なわけがありません。
それでも、教えてもらったことだけでも発表することを最低ラインに、
まずは若手技術者を引き上げるのです。
教えてもらったとおりに発表したとしても、
若手技術者にとって多くの学びがあるはずです。
取り組みで得られる効果
最も大きな学びは、他の技術者の技術テーマの話の流れの理解です。
受動的に聴いていては何もわからなかったことが、
自分が仮とはいえ当事者として発表すると、
その内容理解の幅と深さは格段に広がります。
以降、技術チームミーティングで当該中堅技術者のテーマを聴くとき、
若手技術者が過去に代理発表した経験があれば話の内容を理解できることに加え、
「こういう考え方も有るのではないか」
という提案や質問もできるようになるかもしれません。
このようなことを何度か繰り返すうちに、若手技術者は自然と
「未知の技術に対する警戒感が薄れる」
状態となります。
中堅技術者も時に個人プレーで終わりがちな技術チームミーティングで、
若手技術者から噛み合った質問が出ればやる気も出るでしょう。
こうして醸成されるのが、
「技術チームとしての連帯感」
なのです。
最後に
同じ技術チームであっても、隣席の技術者のやっていることさえ分からないという状態は、
異業種技術を念頭にした自社技術の発展にあまり望ましいとは言えません。
企業戦略として異業種技術協業を目指すのであれば、
現場を担う技術者たちが隣席の技術者のやっていることさえ分からない状態は、
上記協業どころか、その前提条件さえ整っていないといえるのではないでしょうか。
このような状況の改善に活用できるのが若手技術者の有する”柔軟性”です。
今回ご紹介した、
「若手技術者が中堅以上の技術者の技術テーマ代理報告を年に数回行う」
ことは、この柔軟性を活かして若手技術者に異業種技術への好奇心を育てることに加え、
技術チーム内での連携を醸成するという、リーダーや管理職の求める組織力を高めることにもつながります。
上記を実現するには、中堅以上の技術者が自分の技術テーマに関する発表内容を若手技術者に説明し、
若手技術者もわからないなりに教えてもらった内容を代理で発表する流れとなるため、
両者に負荷がかかります。
しかしこのような取り組みは、
結果として若手技術者の異業種技術への好奇心という技術者の普遍的スキルを高めることに直結するのです。
企業としての異業種技術協業戦略実行や、
技術チームの連携醸成に向け、
是非実行いただきたい取り組みの一つをご紹介しました。
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