若手技術者に知的好奇心を刺激できる学会誌の活用法の基本を教えたい

公開日: 2025年6月2日 | 最終更新日: 2025年6月2日

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学会誌内の論文や記事のまとめと共有で、若手技術者に成長実感を持たせる

 

今回は若手技術者のモチベーション向上にもつながる知的好奇心の刺激に対し、
学会誌を活用する方法について考えます。

 

 

 

 

 

技術的成長実感は若手技術者のモチベーション維持・向上の必要条件

 

やる気があり、将来伸びると期待される若手技術者に共通するのは、

 

知的好奇心の高さ

 

です。

 

 

能動的に業務に取り組み、試行錯誤をしながらも指示内容の目標到達点に向かおうとするその姿は、
リーダーや管理職にとって大変心強く映るに違いありません。

 

 

このような若手技術者の原動力になっているのは、
経験によって新しいことを理解したという知的好奇心の刺激と、
その結果として自分が成長しているという技術的成長という2つの実感にあります。

 

 

 

 

 

日々の実務だけだと近視的になり技術的成長のモチベーション低下につながることも

 

企業組織の規模の大小によらず、
毎日のように同じような業務だと大なり小なり”飽き”が生じます。

 

 

飽きなく打ち込めるタイプの若手技術者もいます。
このような若手技術者は将来的にはエキスパートになる可能性も秘めており、
機械学習などの作業効率化に向けた技術が大きく進歩する昨今、
”機械学習そのものの基本となる教材”を提供できるレベルになるエキスパートは企業にとって重要な戦力です。

 

 

機械学習の学習参照されるような位置を維持するには、
何かを突き詰めようとする姿勢が重要です。

 

 

 

 

しかし研究開発のような新しいものを創出しようとする技術業務においては、

 

「新しい技術を求める熱意」

 

も併せて重要です。

 

 

 

当該熱意を有する若手技術者は、日々の単調な業務に”飽き”を感じると思います。

 

 

この飽きは時にモチベーション低下につながることもあるのが厄介なところです。

 

 

 

経験の範囲などが”近視的”になることが一因と考えられます。

 

技術者の普遍的スキルの一つに”異業種技術への好奇心”を指定しているのも、
近視的な考えによって技術者の技術的成長に対するモチベーションの低下を抑制するのが狙いのひとつにあります。

 

 

 

 

 

※関連コラム/連載

 

緊張の続く日常業務と技術者育成において、若手技術者の モチベーションを上げる には

 

モチベーション向上に対する 技術者交流 の重要性

 

若手技術者を活用して異業種技術を含む開発テーマの推進力を高めたい

 

第11回 技術的な飛躍に不可欠な異業種技術への好奇心 日刊工業新聞「機械設計」連載

 

 

 

よって、若手技術者に外に目線を向かせることが重要です。

 

 

 

この具体的手段の一つに”学会誌の活用”があります。

 

 

 

 

 

学会誌は若手技術者の知的好奇心を刺激する良媒体だが活用法の理解が不可欠

 

 

学会誌というのは、何かしらの学術(技術)領域の発展につながるような情報を、
当該領域に関わる、または関心のある学会員に向けて提供することが主目的にあります。

 

 

そこには技術動向理解に関するヒントが隠されている可能性もあり、
また自社が抱える技術的な課題解決に活用できる情報が掲載されていることもあるでしょう。

 

 

学術論文同様、学会誌も技術者にとってはビジネスマンの経済紙の役割を果たせるのです。

 

 

 

ただその活用法をある程度理解していないと、
学会誌も会社のマガジンラックにただ陳列される”もの”になってしまいます。

 

 

 

学会誌を若手技術者の知的好奇心を刺激する媒体として活用するため若手技術者に理解させたいポイントを、以下に述べます。

 

 

 

2、3冊の学会誌を用意し、表紙と目次に目を通す

 

もし手元にあればですが、複数冊、例えば2、3冊の学会誌を用意します。

 

 

いきなり全部を読み込むのではなく、まずは表紙と目次を見ます。

 

 

それぞれ以下のような情報が記載されているでしょう。

 

 

 

表紙

 

以下のような情報、またはそのいずれかが掲載されているでしょう。

 

該当する冊子で何を読者に伝えたいかのメッセージを受け取ることができます。

  • ・トピックスとなる記事の画像
  • ・特集企画名
  • ・主な構成論文/記事

 

 

 

目次

 

目次は以下の通り構成される論文/記事のトピックスと、
それらの分類が分かるようになっています。

 

 

関心のある記事がどれになるかを瞬時に俯瞰してみることができる、まさに道標です。

 

 

  • ・掲載論文/記事のタイトルと作成者
  • ・論文/記事の種類(解説記事、最新動向、資料、論文、研究者紹介、基礎講座 等)

 

 

以上の表紙と目次に目を通す理由は、

 

「関心のある論文/記事はあるか、そして関心がある場合、それは何かを選定すること」

 

にあります。

 

 

 

もしなければ、別号の学会誌について同様のことを行います。

 

 

 

選定した論文/記事の概要を把握する

 

ここが若手技術者の多くが躓く(つまづく)ところでしょう。

 

 

技術情報からの要点抽出は技術者の普遍的スキルの基軸となる、
論理的思考力と技術文書作成力が強く影響するためです。

 

 

何度も述べている通りこれらのスキル向上に王道は無く、
若手技術者のうちに大量の技術報告書を書き、
それを統一基準で添削してもらい、修正する、
という地道なことを繰り返すしかありません。

 

 

そしてこの繰り返しの鍛錬によって若手技術者を成長させる、
言い換えれば技術者育成の効率を高めるには、
ある程度やり方を理解し、統一することが必要です。

 

 

選定した論文を題材に、どのような手順で概要を把握するかポイントを述べます。

 

記事は技術的な要素が少ないケースもあるため、
ここでは学会誌に掲載されていた論文を選んだという前提とします。

 

 

 

1. Abstract(概略)を読み込む

 

まずはここです。

 

学会誌によっては英語で書いてある場合も多いですが、本点を理解するのが第一歩です。

 

 

課題提起や研究の背景、そして評価方法と結果の概要が記載されています。

 

 

 

最初は時間がかかってもいいので、本点をよく理解できるまで読み込むことが肝要です。

 

 

 

2. 図表を眺める

 

これを飛ばしてしまう方が多いのですが、比較的重要です。

 

何故ならば人間の認知効率は、活字よりも画像の方が高いからです。

 

 

図表とそこに記載されたキャプションを眺めながら、
Abstractで触れられた内容が実際にはどのような結果として示されるのかを理解します。

 

 

グラフであれば縦軸と横軸、プロットされたデータの傾向、
CAEの結果であればどのような内容をシミュレーションしたのか、
表であれば各記載数値の意味と一覧から読み取れる事象、
画像であれば何を理解させたいか、といった観点で理解することが重要です。

 

 

 

3. Conclusion(結言)を読む

 

内容をある程度把握した後、Conclusion(結言)を読みます。

 

この段階で前出のAbstractや図表の再確認を行うこともあります。

 

 

ここまでである程度の概要を理解できると思います。

 

完全に理解できていなくても構いません。
次のアウトプットの段階に進むのが重要です。

 

 

 

要点を把握したら技術チーム内で共有する

 

若手技術者なりに概要を把握できたら、
必ずアウトプットさせることが重要です。

 

 

具体的には若手技術者が所属する技術チーム内で共有させます。

 

 

ポイントを順に述べます。

 

 

 

共有は口頭で行うことをトライさせる

 

アウトプットにおいてはスライド資料や文書を作成する必要はありません。

 

 

ある意味最も高度な

 

口頭での発表

 

をお勧めします。

 

 

 

若手技術者が発表する場合、最初の頃はカンペである文書を読みながらでもいいと思います。

しかし、最終的には元となる論文を手元に置くだけで概要を説明できるのが望ましいです。

 

 

 

多くの若手技術者によっては大変難しいと感じるはずです。

 

 

何故ならば、技術報告書のようにポイントをまとめる前準備なく要点を抽出し、
それをしかも口頭で説明するからです。

 

 

口頭での発表をあえて若手技術者にトライいただくのには、
頭の整理には技術報告書など、一度文書化することが最も近道であると理解させる狙いもあります。

 

 

 

理解のポイントとなる図表の共有は問題ない

 

技術チームで共有するにあたり口頭が前提と述べましたが、
要点の理解に必要な図表をスライドで示す、出席者が見られるPCで画面共有する、
または抜粋コピーを配るというのは問題ありません。

 

 

これは言及内容の妥当性を他の技術者という第三者目線で確認し、
技術的な議論を誘発するきっかけにすることに加え、
若手技術者の発表を聴く技術チームのメンバーの論文内容理解の一助となる効果が期待できることによります。

 

 

 

 

ここまで述べてきたことを何度も繰り返すことで、
共有する際の提供情報精度の向上と技術議論の深まりが出てくるでしょう。

 

 

この取り組みによって若手技術者が得るスキルは、
将来的に技術テーマ企画にもつながる技術者の普遍的スキルの一つ”企画力”の向上にも直結します。

 

 

※関連コラム/連載

 

技術者の イノベーション と 企画力 1:企画力とその盲点

 

若手技術者の視線が 内向き で技術情報収集できない

 

第12回 技術テーマ立案に不可欠な技術者の「企画力」鍛錬の勘所 日刊工業新聞「機械設計」連載

 

 

 

 

 

本コラムに関連する一般的な人材育成と技術者育成の違い

 

学会誌も技術者にとってはビジネスマンの経済紙の役割を果たせる、と書きました。

 

 

つまり外部情報にアンテナを張り、その情報を入手するという姿勢は社会人全体として求められることといえます。

 

 

経済紙の読み方に関するスキルは若手社員に加えて就活生の段階でも求められることもあり、
研修等も複数存在します。

 

 

各紙面の読み方のポイントの解説や、
例題を用いたグループワークがその一例といえます。

 

 

読み方には一連の流れがあるため、このような研修は若手社員にとって有意義に違いありません。

 

 

 

これに対して技術者育成では、
学会誌の基本構成理解の説明から始めます。

 

 

学会誌の論文は学術論文と概ね同じ構成となっており、
まずはそれぞれの項目の役割を解説します。

 

また、技術報告書と論文の構成の違いも併せて説明します。

 

 

 

そのうえで、実際に学会誌を用いた要点の理解、
並びにチーム内での情報共有をシミュレートした演習を行います。

 

ポイントはまとめるための時間制限をつけることで、
限られた時間枠の中でどうまとめるかという、
いい意味での割り切りを理解してもらうことを最優先にすることが肝要です。

 

 

 

 

 

本コラムに関連する具体的な技術者育成支援の例

 

技術者育成コンサルティングとして対応します。

 

各企業が関連する学会誌を題材に、
今回ご紹介したやり方を若手技術者に実践していただきます。

 

そのうえで技術チームの顧問として学会誌の内容を共有する技術ミーティングに参加し、
若手技術者の行う学会誌内容紹介を聴かせていただき、
良くできていたところと改善点、
そして次回以降の学会誌の調査と記事/論文選定のポイントを解説します。

 

 

同様に学会誌の活用を通じた技術チームにおける技術テーマ企画への活用法についても、
実際の内容を踏まえた推進法の提案を行います。

 

 

このような取り組みを中長期で繰り返すことで、
学会誌を活用した若手技術者の育成と、
その効果として技術チーム内での技術テーマ企画のフローを両立させ、
組織としての技術力向上の流れを作ることを目指します。

 

 

 

 

 

まとめ

 

学会誌は学会員であれば定期的に技術情報を入手できる、
技術者にとって大変優れた情報媒体といえます。

 

 

これを活用しない手はないのですが、

 

  • ・産業界と学術界はあまり関係が無い
  • ・学会誌は難しそう

 

といったイメージが先行し、多くの企業では活かされていないのが実情かもしれません。

 

 

 

当然、学会誌は産業界への貢献ではなく、学術界の発展を主目的としているため、
産業界から見ればあまり関心のない内容も多いかもしれません。

 

 

ただ既存技術の汎用化が進む現代において、
新規技術の開発や既存複数技術の組み合わせといった考え方は不可欠であり、
その取り組みの第一歩として学会誌を活用するのは妥当なアプローチの一つといえます。

 

 

学会誌の情報共有を若手技術者に担わせることで、
前述の技術情報をチーム内で獲得することと若手技術者の成長を実現させることは、
リーダーや管理職が目指したい方向性の候補といえるのではないでしょうか。

 

 

※関連コラム

 

若手技術者の専門性向上を目的に 学術論文を読ませたい

 

 

 

 

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