若手技術者が試験規格の内容以外を受け入れずに意固地になる

公開日: 2026年5月18日 | 最終更新日: 2026年5月18日

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試験規格は絶対的な回答ではなく妄信してはいけない

 

 

今回は若手技術者が試験規格の内容以外を受け入れずに意固地になる、
ということについて技術者育成の観点からその対策を考えます。

 

 

 

 

 

試験規格とは

 

公的規格の一つである試験規格は、
研究開発だけでなく品質保証をはじめとした多くの技術業務において大変有意義な情報となります。

 

  • 評価対象物
  • 試験片形状
  • データの整理方法
  • 報告すべき情報
  • その他、試験準備や実施に関する留意事項

 

 

上記のような情報、いわゆる若手技術者の求める”模範解答”が、
”試験規格に関連する技術業務”について書かれています。

 

 

 

試験規格は若手技術者や考えることの苦手な技術者の業務に有意義な情報

 

”こうあるべき”という回答が示されている試験規格は、
技術者育成にも活用が可能です。

 

特に適した対象となるのが、

 

  • ・技術業務の実践経験の浅い若手技術者
  • ・考えることの苦手な技術者(若手技術者に限らない)

 

です。

 

 

 

試験規格は若手技術者の不安を抑制する

 

若手技術者にとっては迷った時の参考情報になるという意味で、
試験規格は若手技術者が実務推進する際の不安を取り除く効果があります。

 

 

技術者育成の基本は”技術業務の実践経験の積み重ね”であることを考えれば、
考え込んで進まないよりも、間違っていても前に進むことが重要です。

 

 

試験規格の情報は、

 

「こうやればうまくいく」

 

という印象を与える回答を示すため、

 

「書かれた通りにやればいいんだ」

 

という、一種の安心感が若手技術者に生じます。

 

 

結果としてまずはやってみようという行動を心理的に後押しできる効果が、
試験規格に期待できます。

 

 

 

試験規格は、考えることの苦手な技術者の代わりに必要な技術情報を提供できる

 

考えるばかりで前に進めないのは若手技術者に限りません。

 

 

中堅技術者、場合によってはベテラン技術者であったとしても、
前進がなかなかできない方々が居ます。

 

このような方々に共通するのは、

 

「”考える”ことに対する特定の”思い込み”という課題」

 

の存在です。

 

 

 

”考える=止まって独りでこもること”と思い込む技術者達

 

技術者にとって考えることは当然必要です。

 

しかし技術者の取って”考える”は”立ち止まる”ことではなく、

 

「前に進むための選択肢を創出し、想定される結果に応じた次の一手を提案する」

 

どちらかというと物事の前進につながる”案を生み出す”ものです。

 

 

しかし若手技術者を中心に、技術者の中には

 

「考える=行動を止めて引きこもって時間を使うのが当たり前」

 

という思い込みをしている者も多いのが実情です。

 

 

 

考えるというのは、常に手足も動いていなければならないのが通常であり、
そうしなければ前出の選択肢は生まれません。

 

妥当性のある選択肢は試行錯誤しか出てこないのです。

 

 

試行錯誤という漢字に「行」、つまり「おこなう」という意味が入っている通り、
一人で時間を使ったところで、本当の意味での考えるとは同等になりえません。

 

 

加えて後述の通り、周りとの連携も不可欠です。

 

結果として考えていると言いながら、
上記のような選択肢の創出や想定される結果に応じた次の一手を示すことができず、
時間だけが過ぎてしまうでしょう。

 

生成AIに頼って的外れで表面的、
または当の技術者に全く理解できない不自然な高度な提案に陥ることも、
程度の差はあれ本来の技術者の考えるとは”別物”です。

 

上記が”考えることが苦手な技術者”の典型的な言動です。

 

 

 

産業界の企業に属することを認識して周りと連携し、自らも手足を動かすことは不可欠

 

学術界と異なり産業界である企業に属する技術者にとって、
周りの技術者をはじめとした社内外の社員との連携も必要となります。

 

 

一人で考え込んでいても何も進まず、周りにも悪影響を与えてしまうのです。

 

 

 

このような技術者に対し、

 

「第一歩を踏み出すのに必要な技術情報を提供できる」

 

ことが、試験規格の重要な役割となります。

 

 

技術者が仮に考えることができなくとも、
試験規格に関連する技術業務であれば、
必要な答えは当該規格に概ね網羅されているでしょう。

 

 

この情報があれば、考えることが苦手な技術者であっても、
次の一手に対し適切な提案を行うことができます。

 

 

参考情報を元に提案ができるという自信が技術者にあれば自然と周りに自らの案を示すことができるため、
連携が生まれることになるのです。

 

 

 

この辺りは過去に連載記事として取り上げたこともあります。

 

 

※関連連載

 

第27回 考えることが苦手な若手技術者に任せてみたい技術業務 日刊工業新聞「機械設計」連載

 

 

 

 

 

試験規格の副作用

 

前出の通り技術業務に対し、関連する業務であれば適切な技術情報を提供できる試験規格ですが、
思わぬ副作用を生むこともあります。

 

 

それが、

 

「試験規格に書いてあることは絶対的な正解であるという執着」

 

です。

 

 

 

試験規格に対する妄信

 

材料試験を中心とした技術業務を行う技術者を指導する際によく直面するのが、

 

「試験規格にはこう書いてあります」

 

という表現です。

 

 

 

もちろん模範解答なので間違えていることはあまりありません(私個人の経験としては、ここも絶対ではありませんが)。

 

 

 

技術的に議論したいのは規格に何が書いてあるかではなく、
実情を踏まえればこういう風にした方がいいのではないか、
より妥当な方法もあるのではないかという議論をしたいにもかかわらず、

 

「それは規格に書かれている内容とは違います」

 

といった応答になる若手技術者もいます。

 

 

中堅技術者も例外ではありません。

 

 

 

試験規格は模範解答だが絶対的な回答ではない

 

研究開発をはじめとした新しい技術の創出や発展を目指すのであれば、

 

「何が起こるかわからない」

 

ことを行うのが技術業務です。

 

 

 

そのような取り組みの”一部”として試験規格を使うことも珍しくなく、
例えば材料データの取得に試験規格を使うというのは一例です。

 

 

 

常に試験規格が想定する理想状態とは限らない

 

様々なことを試行錯誤して行う中で試験規格通りにできるとは限りません。

 

 

 

  • 自社設備や委託先設備に性能限界がある
  • 準備できる試験片の量や寸法に制限がある
  • 適切なデータを取得するには他の試験規格を参照したほうがいい

 

 

上記のような状況では、試験を規格通りに進められない一例です。

 

このように実情を踏まえれば、元々想定していた試験規格と異なるやり方を採用するしかない場合もあります。

 

 

 

意固地になる若手技術者

 

このような状況にあっても、

 

「採用すべきは想定していたこの試験規格です。そこには試験できると書いてあります。
またそのような試験片形状や試験設備では試験してはいけないとの記述もありますので、
今の状況では試験をやっても無意味です。」

 

と主張を繰り返す若手技術者もいます。ここまでくると”意固地”と言っていいでしょう。

 

 

全体の状況を俯瞰的に見ることができない一方、
模範解答を得たと自信を深めた若手技術者は盲目的になっていきます。

 

 

しかし技術業務において試験規格は一つの明確なルールであることに疑いの余地はない一方、
そこに依存していては前に進めない、新しいことに取り組めない可能性も共存しています。

 

試験規格が技術業務における”絶対的な回答”ではないという限界は、
このようにして顕在化します。

 

 

 

では、リーダーや管理職はこのような状態になったとき、
どう対応すればいいのでしょうか。

 

 

 

 

 

試験規格は類似のものが複数存在することも多いことを伝える

 

試験規格は仮に同じ評価であっても、
類似のものが複数存在することも珍しくありません。

 

 

ある特性を評価する試験について、
当初想定していた試験規格だと難しかった評価が、
別の試験規格だとできるということも十分あり得ます。

 

若手技術者は最初に想定した試験規格や、
模範解答を示してくれたと感じる特定の試験規格にこだわってしまい、

 

「代替案は無いか」

 

という考えに至らないことも多く、
それが自らの選択肢を狭め、前出の意固地の対応につながることもあります。

 

 

同じ評価であったとしても試験規格は複数存在する可能性を理解させることが肝要です。

 

 

 

 

 

こだわった技術的内容が事実か否かは実験や試験で確かめさせる

 

例えばある試験について代替となる試験規格が見つかり、
そちらの方が設備や評価対象となる試験片の状況を考えると妥当と考えられたとします。

 

 

しかしこの場面でも、

 

「当初提案された試験規格で評価するべきだ」

 

と若手技術者が強く主張したとします。

 

 

 

ここでリーダーや管理職が若手技術者に指示してほしいのが、

 

「当初案、代替案、その両方の試験規格でそれぞれ暫定試験片などを用いて予備試験を行い、
どちらでも問題なく試験できるのか、そしてそれぞれの結果の同等性について確認すること」

 

です。

 

 

 

※関連コラム

 

技術者がデータの同等性を技術的に判断できない

 

 

 

若手技術者に実験や試験で事実を確認する癖をつけさせることが技術者育成では重要

 

”百聞は一見に如かず”ということを若手技術者に理解させることが狙いにあります。

 

 

若手技術者が最も距離を置いてほしい立ち位置は”評論家”です。

 

 

技術的な議論をすることは当然重要ですが、それ以上に重要なのは、

 

「技術的な事実が何なのかを実験や試験で確認する」

 

ことです。若手技術者は特に議論重視という”頭でっかち”になってはいけません。

 

「本点はわからないので、実際に実験(試験)で確かめてみます」

 

そのような発言が出るまで、若手技術者には繰り返し実験や試験の重要性を伝えることが肝要です。

 

 

 

これを繰り返せば自分の意見を客観的に見る癖がついてきます。

 

 

 

妥当な技術的議論ができるようになるのはその後です。

 

 

ゆくゆくは条件反射的に”具体的にどのような試験や実験を行うのか”を明文化する技術評価計画をかけるようにすることが狙いにあります。
若手技術者がここまでくれば、技術者の普遍的スキルは順調に高まっていくでしょう。

 

 

※関連コラム

 

若手技術者が 口ばかり で動かない

 

 

 

 

 

最後に

 

公的規格の一種である試験規格は若手技術者が前進するにあたっての先導者にもなるため、
技術者育成に活用する価値があります。

 

 

ただ残念ながらリーダーや管理職が思い描くような視点で若手技術者が試験規格に向き合うとは限らず、
それを絶対的な存在として妄信することも珍しくありません。

 

 

妄信することによって固執するようになるのが最も問題です。

 

 

このような状況に陥った若手技術者には、

 

「その主張が正しいかどうかを実験や試験で示すこと」

 

を指示するのがリーダーや管理職の姿勢としては正解です。

 

 

 

試験規格と言えども絶対的な正解とは限らないのです。

 

 

 

議論するよりも実験や試験で確認するという癖がつけば、
自然と技術評価計画も作成できるようになります。

 

まさに技術者の普遍的なスキルが醸成される流れといえます。

 

 

若手技術者を評論家にさせないための取り組みとして、
職場でも実践いただければと思います。

 

 

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