緩慢な働き方で若手技術者の成長が実感できない
公開日: 2023年9月12日 | 最終更新日: 2023年9月11日
Tags: OJTの注意点, プロジェクト型技術業務, メールマガジンバックナンバー, 技術者人材育成, 若手技術者の指導者
若手技術者育成というのは大変時間がかかるものです。
専門性至上主義を有し、自身の力量不足を棚に上げて育成を行う人物の技術力を重視し、
しかし自尊心が低いため自分を守ろうとするという、
人材としての基本教育を行うにあたっての弊害となる特性を、
技術者が有していることが多いというのがその一因といえます。
そのため、「時間をかけても若手技術者の成長が感じられない」と感じるリーダーや管理職も多いのではないでしょうか。
この課題にどう向き合うべきかについて考えます。
技術者育成は長期的な継続が不可欠
第一にリーダーや管理職が理解しなくてはいけないこと。
それは、
「技術者育成には効率を求めすぎず、長期的かつ継続的な取り組みが不可欠である」
ことです。
様々な業務において効率化が叫ばれていますが、
特に技術職の社員を育てるという技術者育成においてその考えは危険です。
技術者を育てるにはその個人の有する資質もさることながら、
その資質をどのように活用すれば伸びるのかを見極めた上で、
経験値を蓄積するのに必要と思われる仕事を与え、
そのアウトプットに応じた指示や提言をすることについて地道に繰り返すしかありません。
この繰り返しにより、
「若手技術者が”当事者意識”をもって仕事を進める」
という前提はあるものの、
「課題や壁にに直面し、それを乗り越えることが求められる」
という際、
「あそこで言われていたことはこのことか、と”自分で”気がつく場面」
が出てくるはずです。
この繰り返しこそが技術者育成の本質です。
自分で気がつく場面に出会わせるためには、
適宜仕事を与えながら繰り返し言葉をかけることがリーダーや管理職には求められるのです。
効率という考え方が無意味であることを実感いただけるかもしれません。
むしろ、
「技術者育成において効率という考え方は不要である」
と気がつくことが”最も効率的”かもしれません。
人は期限付きの我慢によって集中力を高めることができる
ビジネス総合誌のプレジデント(2023年9/29号)に興味深い記事が掲載されていました。
※参照情報
題目にもあるように”我慢しない生き方”というのが主たる内容です。
この特集内容全般も技術者育成に活用できる部分が多くありましたが、
読み手が自らを冷静に理解できていることが大前提であるため、
本質的な内容を理解するという意味では比較的高度な内容とも言えます。
自分は我慢しているので我慢しなくていいという点を見つけたい、
という「確証バイアス」の心理を働かせながら読んでしまうと、
ご自身本来の課題を見失う可能性が高いためです。
そのような中で、技術者育成に必ず役立つと考えられたのが、
「我慢するなら期限付き」
という題目で記述された短い記事です。
当該誌の特集記事では我慢しないことの良さと、我慢することの問題を解説する内容が主でしたが、この部分だけは少し切り口が違いました。
我慢は良くないが、期限限定の我慢であれば「ノルアドレナリン」が分泌され、
集中力が高まるという内容でした。
副腎から合成・分泌される神経伝達物質であるカテコールアミンの一種で、
ベンゼン環に2つの水酸基がオルト配位で結合し、-CH(OH)CH2NH2という官能基を有する化合物のようです。
血管収縮作用が強いということも参照文献には書かれていました。
※参照文献
この考え方は技術者育成に応用できることが、私の経験則からわかっています。
技術者の取り組む研究開発に向けた業務は期間が長くなる傾向
技術者の担う仕事は様々あります。
日々の製品製造を担う現場での作業、例えば設備稼働や品質保証、検査を行う技術者もいます。
このような技術者は日々時間に追われることが多いため、
余裕がある日々を過ごすということは少ないと考えられます。
その一方で、研究開発という仕事は少し毛色が違います。
何をやればいいのかという所から自ら考えて仕事を設計することも多く、
その時間軸が決められていないことも珍しくありません。
時間軸が決められている場合でも、技術的な本質部分というよりも成果を早く上げるという”効率”や、企業内事情の”予算”という観点から例えば1年といった形で決められているケースが多く、本質的な時間軸設定と比べて尺が圧倒的に長いです。
技術者育成のOJTは期限を明確化したプロジェクト型業務で行うべき
上記でご紹介したノルアドレナリンに関する記事でも述べられていましたが、
期限を限定することによって人間が集中力を高め続けられるのはせいぜい1カ月程度です。
1年という間延びするような期間、緊張感をもって何かをやるのは非現実的ではないでしょうか。
そのため技術者育成の観点を取り入れた場合、
技術者の行う中長期の技術的な仕事については、
・技術テーマの背景
・技術テーマの目的
・技術テーマで得たいアウトプット
・技術テーマ推進計画
・アウトプットを獲得するために必要な評価手順概要
といったことを”予め”決めてから進めるということが求められます。
目的、得たい成果、スケジュールに加え、具体的に何をやるべきかまで、ある程度決めます。
これらの情報をベースに期限を例えば最長数カ月単位に区切って行う仕事のことを
「プロジェクト型業務」
といい、過去のコラムやメルマガでも何度も取り上げました。
詳細はここでは述べませんが、特に異業種技術協業等を目的とした社外との共同研究開発では必須になります。
※関連コラム
海外コンソーシアムにおけるプロジェクト型業務で活躍する技術者
技術者がプロジェクト型業務を推進するには企画力が必須
実際に手を動かし始める前に決める「企画力」が”技術者の普遍的スキル”の一つであることは、過去の連載でも述べています。
合わせてご覧ください。
※関連情報
第12回 技術テーマ立案に不可欠な技術者の「企画力」鍛錬の勘所 日刊工業新聞「機械設計」連載
プロジェクト型業務推進体制ができたら短期集中で若手技術者に取り組ませる
プロジェクト型業務で技術業務を推進できる状態になったら、
技術テーマを完遂まで複数段階に分け、
できれば数週間から1カ月程度のスケールまで再区分した上で若手技術者に取り組ませてください。
若手技術者はいつまでに何をすべきか、
そしてそれをどうやるべきかまで情報がインプットされるので惑うこともありません。
”自分で考えられるようになる”のが技術者育成の本質であることに疑いの余地はありませんが、
元々そのようなことができる若手技術者を除き、このような短期集中の技術業務を実経験させることが、
結果として自分で考えられる技術者への成長のきっかけを得ることにつながるのです。
明確な時間軸の中で技術業務を取り組ませることで発生するノルアドレナリンによって、
いい意味での緊張感を若手技術者が持てると思います。
このような緊張感を持っての取り組みは、技術者育成の効率向上には大変重要であることを、
リーダーや管理職にご理解いただければ幸いです。
技術者育成に取り組む職場で是非実践してください。
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