技術報告書で考察は重要ではない
公開日: 2022年3月1日 | 最終更新日: 2024年6月23日
技術報告書で最も重要な項目は何か。この質問に対して多くの技術者は「考察である」と答えます。
しかし、結論から言うとこれは間違いです。
今日は技術報告書で考察は重要ではないという、技術者にとって意外ともいえる部分について考えてみたいと思います。
技術者の成果物が技術報告書であることは不変
これまでコラムにおいて、
「技術者としての最上位の成果物は技術報告書である」
ということを何度も述べてきました。技術報告書については何度も触れてきており、過去には以下のようなコラムで述べたこともあります。
やはり、技術報告書が技術者にとって大変重要な成果物であることに変わりはありません。
実際に多くの企業において、技術報告書をきちんとかける技術者が少数派なのはもちろん、そもそも技術報告書を書くという社風が無い企業も多いのが実情です。
しかしこれらの課題を乗り越え、実際に技術報告書を定常業務として取り入れたいと要望を有する企業を、実際の支援するという段階で問題となるのは意外なところにあります。
技術者が技術報告書を書かない
技術報告書を技術者が作成する意義を企業として理解し、マネジメントも同意し、実際に企業に対する支援を開始した際、多くの場合で問題となるのが、
「そもそも技術者たちが技術報告書をなかなか書かない」
ということです。
理由はいくつかありますが、よくあるものを並べると以下のようになります。
・他の業務が忙しくて技術報告書を書く時間が無い。
・残業しないと技術報告書まで手が回らないが、マネジメントからは残業をするなと言われてしまっている。
・書いたとしても誰も読んでくれないので、書く気にならない。
・技術報告書を書いたとしても、それをマネジメントが成果として認めてくれないのではないか。
・マネジメントが書いてこなかったのに、なぜ自分たちが書かなくてはいけないのか。
概ね技術者たちの主張は上記のいずれかに収束される場合が多いです。
もちろん、上記の主張の中には社内のマネジメントが現場の技術者に対してきちんと説明して理解させ、技術報告書を書くという文化を醸成するのは必須のものもあります。しかし割合でいうと、
「時間が無いから書けない」
というマネジメントよりも、現場の技術者の時間不足と感じていることが原因となっているケースが多いのです。
時間不足で技術報告書を書けないという深層心理に立ちはだかる「考察崇拝」
当然ながら中小企業の中には、研究開発業務を行いながらも売り上げを立てるよう求められる、少ない人数で多くの業務をこなすことを求められる、設備稼働などの生産活動も行わなくてはならない、という境遇の技術者もおり、これらの方々は物理的に時間が足らない状況に陥っているといえます。
上記の場合、マネジメントが技術報告書を書くという時間的猶予や業務時間に裁量を与えることが先決となります。
しかし、必ずしも時間が無いわけではないのに技術報告書を書けない、または書かないというケースが多いのも事実です。
そのような状況の原因のひとつにあるのが、
「技術報告書では考察が最も重要であるという”思い込み”」
です。
技術報告書をあまり書き慣れていない技術者に対し、技術報告書の主な項目の中で何が最も大切でしょうか、と問いかけると半分近くの方が「考察」と答えます。
考察項というのは、技術報告書でいうと行った評価とそれによって得られた結果を踏まえ、どのように考え、次の展開を何にするのかを記載する自由度の高い項です。
しかしながら、考察項というのは得られた事実を踏まえ、様々な知見や経験を踏まえて、頭を使いながら記載しなくてはならないため
「大変時間がかかる」
というケースが多い。経験値や知見の不足する技術者でよりこの傾向が顕著になります。つまり、
「時間のかかる考察を重視するために技術報告書作成時間が延び、結果的に時間不足になる」
ということが多く起こっているのです。技術報告書を記載する前の優先順位を間違えている故に、時間がかかってしまっているといえます。
過去に「技術報告書の書き方の鍛錬の第一歩」というコラムでも述べましたが、
技術報告書で最も重要なのは目的の理解
です。
その次に重要なのは、
実際に行った評価の詳細とその結果
です。つまり、
「技術報告書で重要なのは、作成者である技術者がその目的を理解し、行った評価と結果という技術的事実を正確に伝える」
ということになります。技術報告書の作成において重視すべき優先順位において、考察項の記載の優先順位はこれらの後です。細かいことを除けば、大目的という観点だけでいうと「考察項の記載」というのは最後尾といっても過言ではありません。
技術者にとって意外ともいえる事実かもしれません。
技術報告書の作成が不慣れな技術者は考察を書く必要はない
技術報告書を企業としても書かせたい、マネジメントもその方針に同意している、という前提が揃っているものの、技術者たちが技術報告書をなかなか書かない。
そのような状況に陥っているときは、
「技術者たちに考察の記載を禁止する」
というのが効果的です。
書いても書かなくてもいいではなく、思い切って禁止にしてみてください。
あくまで目的を理解し、評価と結果という技術的事実を記載することが優先であると理解させるのです。
経験が浅く、また自尊心の低い技術者はこの方針に反発するはずです。
そのような技術者程、技術報告書では考察が重要だと思い込んでいるのが、その背景にあります。考察項という技術者が自らの意見を主張できる項を記載することで、自分の技術者としての立ち位置の明確化を行いたいという承認欲求があるのです。
しかし、考察を書かなくていいとなると書きやすいということに技術者たちが気が付くと思います。その事実に気が付くまで、マネジメントは粘り強く考察を禁止するという方針を貫いてください。
まずは定常業務として技術報告書が作成されないと、技術報告書が社内の知見として蓄積される流れができません。
考察というのは、評価目的を理解の上、行った評価とその結果という技術的事実をきちんと明文化できる、という前提条件が満たされないと無意味である
この事実を今一度認識することが肝要です。
技術者達にとって「考察」というのは自らの専門性を活用した意見を述べられることから、専門性至上主義を重視する世界では極めて華やかな舞台です。
しかしこの舞台に上がるには、そもそもの目的を理解し、行った評価とその結果という技術的事実を正確に伝えられるということができて初めて立つことができるところです。セリフも覚えられず、歌や演技ができずに舞台に立とうと無理をすると、その準備に時間がかかってしまうという例えができるかもしれません。
技術報告書を書くことが苦痛と感じるのであれば、まずは考察を捨てる。
必要に応じて、是非実践いただきたい考えです。
本コラムに関連する一般的な人材育成と技術者育成の違い
技術報告書において考察は重要でない、
という技術者の多くの方にとって意外と思われるお話をご紹介しました。
このように技術報告書作成スキル向上には、
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