技術者が実践すべき技術屋気質とは何か
公開日: 2022年9月26日 | 最終更新日: 2022年9月24日
技術者をはじめとした技術系社員を、
「あの人は技術屋気質(ぎじゅつやかたぎ)だから」
と表現されることがあります。
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気質ということばは、「きしつ」という読み方と「かたぎ」という読み方があります。
新明解国語辞典(第八版/三省堂)によると、
それぞれ以下のように解説されています。
気質/きしつ:先天的な体質に関係のある感情・性質
気質/かたぎ:その職業・階層の人たちに見られる、思考の型や心理的傾向
「きしつ」は人が生まれもって有する特性のようなもので、
「かたぎ」はどちらかというと、後天的に形成される特性という印象です。
冒頭の「技術屋気質(ぎじゅつやかたぎ)」という表現は、
残念ながらあまりいい意味ではなく、
とっつきにくい、扱いにくいといったニュアンスで用いられるケースも多いと感じます。
つまり、技術職という職種によって形成される思考の型や心理的傾向というものが、
客観的にみるとネガティブポイントになっているのです。
その一方で、客観的にみてネガティブだからそれがすべて悪いというわけではなく、
技術者を含む技術系社員が持たなければならない考え方もあるのは事実です。
今回はしかるべき技術屋気質(ぎじゅつやかたぎ)について改めて考え、
若手技術者に伝えるべきポイントについて述べたいと思います。
※以下、気質はすべて「かたぎ」の事を指すとします。
技術屋気質としてのこだわりは命。しかしこだわるのは技術そのものではなくその”本質”
技術者や技術系社員を指す技術屋と呼ばれる方々は、
ほぼ間違いなく”こだわり”を持っています。
それ故に「頑固」という印象を与えることも多いのではないでしょうか。
何かに対するこだわりを悪とする見方もありますが、
いわゆる技術屋にとってこだわりは生命線です。
企業に属する技術系社員の使命は、
「技術的な発展、発見といった付加価値により企業ブランドを向上させる」
ということにあります。
この姿勢は生産や製造、または研究開発を行う方々であっても変わりはなく、
担当業務に依存しない、まさに技術系社員の仕事の本質といえます。
そして、このような技術的な発展や発見に到達するには、こだわりと表現されることも多い
「集中力」
が不可欠です。
よって、こだわりの強いという技術屋気質は頭ごなしに否定されるべきものではありません。
こだわりがエスカレートして視野が狭くなり、周りの意見に耳を傾けなくなるのは危険
しかし、技術者の多くが陥ってしまうのが
「この技術を一番知っているのは自分なのだから、これが絶対に正しい」
「今までの経験だとこうなるのだから、これで間違いない」
「この技術に関するこれ以上議論は必要ない」
といった、近視的かつ断定的な考えです。
これはこだわりというよりも、単なる意固地や決めつけに過ぎません。
意固地や決めつけは技術的な価値に何一つ好影響を与えません。
むしろこのような傾向は、技術的な発展や発見に対してマイナス的な要因が大きくなってしまいます。
様々な変化に対して柔軟性が低く、従来の考えや範囲を超えることができなくなるためです。
発展や発見という「従来の範囲外」にある世界に到達するために必要なのは、
技術領域等の境界を飛び越える跳躍力と勇気。
意固地や決めつけがその動きを阻害するということは想像に難くありません。 要素となることは当然ではないでしょうか。
こだわるべきは、不変である技術的な”本質”
こだわりがいい方向に活かされるのは、そのこだわりが技術的な”本質”にあるときです。
技術的な本質とは何でしょうか。
一例としては「定理」があります。
定理というのは真であることが証明されている命題であり、
もしくは公理から導かれるものの中で特に重要なものとされているものです。
信頼ある専門書にも掲載されるような技術的理論が代表例です。
また、改ざんの余地がない状態で記録が明確に残っている技術的事実、
といったものもそれに準ずるものとして評価されるべきかと思います。
ベテラン技術者等の経験というのは、その場で再現できる場合を除きこの限りではありません。
もしかすると当事者の記憶に対して、意識しているか否かは別として脚色がなされる可能性もあるためです。
繰り返し技術的事実を伝える技術報告書が大変重要であると述べているのも、
上記のようなことが背景の一つにあります。
技術者を含む技術系社員は、不変である技術的な本質に徹底的にこだわることは大変重要です。
本質なき技術は中身がなく、
技術系社員の背負う使命を果たすことに役に立ちません。
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目の前のことに集中しながらも近視的になり過ぎず、視点は常に外に向ける
技術屋気質は何かに集中する、没頭するという側面を指すこともあります。
これも技術的な発展や発見において重要といえます。
しかし目の前のことに集中していると気が付かないうちに近視的になり、
視野が狭くなるだけでなく、視点が低くなることが技術系社員に多く起こります。
近視的になると仕事の意味と意義を見失う結果、自らが技術的優位性を維持できる安全地帯に籠る
近視的な状態に陥った技術系社員が陥るのが、
「自分が日々行っている業務の意味や意義を見失い、手足を動かすだけの作業になる」
ということです。これは技術者のモチベーション低下の一因となるため注意が必要です。
そしてこの状態が続くと最終的に到達する行動が
「自分の中で技術的優位性を維持できる安全地帯に籠る」
ことです。
既述の通り企業に属する技術系社員に求められるのは、
技術的発展や発見による企業ブランドの向上です。
自らの定義した安全地帯という狭い世界の中だけでは、
現状維持「以下」はできても、それ以上のことはできないのです。
この状態にある技術者は一般的には給与の上がる年齢の積み重ねによって、
組織のお荷物となっていきます。
目の前のことは集中しつつ、
しかし仕事に関連する技術業界、他の技術業界の情報に触れながら、
近視的になり過ぎない様、視点を上にあげることを意識する「技術屋気質」が技術系社員には求められます。
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評論だけするようになった技術系社員の存在価値は大きく低下
技術屋気質の一つとして、色々な技術的業務に口を出したくなるというものもあるようです。
これは、自分は技術を知っているという優位性を確認したいという承認欲求の一つです。
重要なのは、その口出しが「評論だけなのか否か」です。
評論というのは大変たやすい。
一番わかりやすい技術系社員の評論は、
「本来はこうあるべきだ」
というべき論の連続です。
本来必要な技術が無いからはじまり、
材料、設備、人が揃っていない。
経営陣やマネジメントを行う人材が悪い。
これらに問題があるといった論調が一例です。
また、この技術はこういうものだ、という知識の伝承だけで終わるというケースも別例といえます。
口頭教科書のような意見です。
どれも議論する価値があまりなく、
そもそも次の行動につなげる結論を導き出すために必要な技術的ポイントが欠けています。
企業に属する技術系社員は企業の技術ブランド向上という目的に向け、
具体的なアクションを起こす必要があります。
その観点を考えた場合、上記のような評論を繰り返すことに価値は見出しにくいのではないでしょうか。
結果的に、評論や知識の提供しかしない技術系社員に居場所はなくなっていくでしょう。
技術的業務に対して他人事であることが周りから見えてしまうからです。
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問題に直面した若手技術者が「 べき論 」をかざすだけで、動かない
技術屋気質で欲しいのは具体的提案
技術的なことに口出しするなどして関わりたいという技術屋気質は、
技術的なことに関わりたいという関心や好奇心があるという観点からみると、
悪いものではありません。
そしてこの技術屋気質をいい方向にもっていくうえで欲しいのは、
「具体的な提案」
です。
技術的なことを放っておけない技術屋気質に具体的なアクションにつなげられるような提案が加わると、
その価値は大きく跳ね上がります。
自分だったらどうするか、という当事者意識も持ちながら提案をするイメージとなります。
このようにしてもたらされる提案には客観的視点もあることから、
技術的課題に対するブレークスルーになることもあります。
よって技術系社員が何かを議論する際は、
評論や単なる知識の提供に終わらず、
「具体的にどうすべきかという提案こそが重要である」
と強く意識することがポイントといえます。
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上記の通り技術系社員というのがその成果を出す、または成果を出すことを後押しするにあたり、
技術屋気質が貢献できるケースも存在します。
しかし一歩間違えると技術屋気質が周りに対して否定的な要素となるのも事実なのです。
将来のある若手技術者には上記のような留意点も伝えながら、
・当事者意識を中心とした技術的業務へのこだわり
・集中力を維持しながらも外に向けた視点
・評論や知識提供だけでなく具体的な提案
という技術屋気質の必要な本質について教えるということが重要です。
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