リスキリングが求められる時代の技術者育成指針
公開日: 2023年4月24日 | 最終更新日: 2023年4月24日
タグ: OJTの注意点, イノベーションと企画力, マネジメント, メールマガジンバックナンバー, リスキリング, 技術者人材育成, 生産性向上, 異業種スキル
一昨日から始まっているG7労働雇用相会合。
この会合においてキーワードとなっているのが
「人への投資」
です。
※参考情報
「人への投資を強化」 G7労働相会合、閣僚宣言を採択(日経新聞電子版 2023年4月23日)
概要としては技術の様々な進歩によって産業構造が大きく変化すること念頭に、
学び直しであるリスキリングによってデジタル化、グリーン化といった、
現在トレンドといわれる変化への対応力強化と労働力の移動を促すというものです。
G7で労働人口そのものが減少傾向にあるという危機感も、
このような議論を後押ししていると感じます。
実感として変化が急速に進んでいると考えられる昨今において、
議論の対象を製造業の技術系社員である技術者に見据え、
上記の産業構造変化に対してどのような育成方針を定めるべきかについて考えます。
誰もがリスキリングに邁進する必要はない
変化が大きく、しかし先が見通せない時代には必ずと言っていいほど
「模範解答を求める」
という流れが出てきます。
今でいえば、AI、IoT、仮想空間、GX等がその一例です。
これらが間違っているとは思いません。
しかし、自社、自分の足元の状況も顧みずに盲目的に視点をそちらに向かわせることにリスクを感じます。
このような新技術に対応すべくここ数年注目されているのが、リスキリングと呼ばれる学び直しです。
大手企業の社内人材育成でも取り上げられ、多くは業務効率化に向けた取り組みにデジタル技術を活用するという趣旨のようです。
ただ、技術者という視点で考えるとリスキリングというのは疑問符がつくことがあります。
技術専門性というよりどころを持たない技術者の課題
新しいものを学ぼうという姿勢自体は大変重要ですが、それ以前の問題として
「現段階で、技術者が自らの技術専門性の基軸はこれであるという断言ができない」
というケースが多いのが既述の疑問符の背景にあります。
技術者というのは、自らの技術的専門知見を活用しながら知恵に昇華させ、
この知恵を駆使して技術的な課題解決、そして技術の発展や発見を目指す職種です。
この状態になるには、
「このような経験、このような勉強法、このような協業法により、本当の意味での技術者の技術専門性は醸成される」
という、
「技術者としてのスキル向上の”型”」
を習得することが大変重要です。
この”型”は技術領域や技術業界に不変なものであるため、技術者のスキル鍛錬法の本質とも言えます。
月間技術誌での連載でも取り上げている「技術者の普遍的スキル」は、まさにこの”型”に該当するものと言えます。
※参照コラム
日刊工業新聞社 機械設計での技術者育成に関する連載開始
この型ができている技術者であれば、リスキリングによってどのような技術的内容であっても、そこから本質を抽出し、自らの技術者としての力を高める方法を見出すことができると思います。
しかし、自らの技術専門性の基軸が定まらない技術者にリスキリングをさせて、
例えばデジタル化等の知見を与えてしまうと混乱しかもたらさないでしょう。
すなわち基軸のない技術者にリスキリングをさせてはいけないのです。
時代の流れに乗ることは大切ですが、もっと大切なのは、
「どれだけ時代が変わっても不変の技術者にとってのスキルの本質は何か」
を見つけ出させることなのです。管理職やリーダーはここをまず注視することが求められます。
若手技術者は実務最優先、経験値を有する中堅技術者にはそれに加えて最新技術を扱える専門家を統括するスキルを学ばせる
上記の内容を踏まえ、改めてリスキリングについて考えます。
リスキリングによって学ぶべきことは、教育対象である技術者の状況によっても変化させる必要があるのがポイントとなります。
若手技術者は何はともあれ目の前の技術業務を的確に推進できる実務力を鍛錬させる
経験の浅い技術者は、残念ながらリスキリングの対象にはなりません。
働き方改革で自分の時間が増えた中で、能動的に学ぶことはこの限りではありません。
自発的な学びはいつの時代も大変重要で有り、またモチベーションを高めるという観点もあります。
※関連コラム
若手技術者に技術的な 資格 を取らせるべきか否か
しかし会社がリスキリングを若手社員に施すということについては、
技術者育成という観点から言うと推奨はできません。
若手技術者が理解すべきは、所属する企業が生業としてきた業務の理解と、
実際に推進するにあたってどのような流れで仕事をするのかという実務経験です。
特に技術者が苦手な技術文章作成業務や周りの部署の人間との協業を体感することが重要です。
労働時間が限られている今だからこそ、ここに集中する必要があります。
少なくとも20代は新しい技術を会社で学ばせるのではなく、
目の前のことに尽力させることから覚えさせるべきだと考えます。
自らの技術専門性の基軸ができた中堅技術者はリスキリングが重要
ある程度は技術的専門性という基軸ができた中堅技術者についてはリスキリングが重要です。
技術者は自らの専門性が通じる安全地帯に籠る傾向があるため、
リスキリングを通じて特定技術領域にはまらず広く高い視点を持つことが、
技術者としての実践力を維持、向上させるために必要な取り組みとなります。
※関連コラム
技術者が実践すべき技術屋気質とは何か
ただし注意点があります。
技術者は専門性至上主義を掲げているケースが多いため、
「リスキリングを単なる知識習得の場」
として捉えてしまう可能性があります。
リスキリングを受けるような技術者に求められるのは、
「技術業務の実践経験を通じて獲得した”型”をどのようにして新しい技術の習得と活用にむすびつけるのか」
ということです。
リスキリングを受ける中堅技術者に求められるのは高い視点と統率力
ここで最も重要視させたい視点が、
「最新技術を扱える人間を統括できる技術者になる」
というものです。
つまり俯瞰的視点で最新技術を扱えるような人間に対し、
「何をしてもらいたいのかという具体的な要望提示と指示、並びにフォローアップ」
というマネジメントをする力が求められるのです。
リスキリングを許可される中堅技術者に間違いなく求められるのは、
「論理的思考力を土台に技術文書作成力と企画力という技術者の普遍的スキル」
です。
具体的な要望を提示するためには、自らの言いたいことを活字化できるまでに落とし込めることが必須です。
そして、具体的にその要望に向かってどのように動いてほしいのかという指示を出すには、
全他を俯瞰して道筋を示す企画力が無ければ絶対にできません。
加えて上記の二つの行動には論理的思考力は前提条件となるため、こちらも必要です。
実務で得られた業務推進に関する経験、それを通じて技術的専門性を高める自らの”型”をフルに活用し、
そこにリスキリングで入ってくる新しい情報を整理の上で習得します。
ここまで来たら、それらの情報を使って実務を担当するというよりも、
「最新技術を扱えるような人間(または企業)を統率していく」
という視点を持たせることが、技術者を有する企業にとって本当の意味での産業構造変化への対応力につながっていくものと考えます。
いかがでしたでしょうか。
リスキリング等の学びはあくまで実践力が求められる技術者にとっては予備知識にすぎません。
その知識を使って新しい実務推進にこだわるのではなく、どうしたらこれらの知識を有する専門家集団を活用できるのかというマネジメントを行う側の視点を持つことが、これからの多くの技術者に求められる視点だと思います。
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