若手技術者の自主的な技術学習に適した参考書

学会発行の参考書は若手技術者にとってのバイブル

 

 

若手技術者に限らず、多くの技術者が有する専門性至上主義という考え方。

 

これは、実践業務を通じて蓄積する経験値の獲得効率を低下させる業務の主観的な選別、
行動する前に調べ始める内向きな姿勢、自らが技術的優位性を保てる技術領域への引きこもり等、
多くの弊害をもたらす一方、技術者育成という観点から育成する側が理解すべき前提でもあります。

 

 

 

※関連コラム/連載

 

第2回 普遍的スキルの鍛錬を阻害する技術者の癖 日刊工業新聞「機械設計」連載

 

技術者が実践すべき技術屋気質とは何か

 

 

 

さらに若手技術者の育成を主に担当するリーダーや管理職は、
技術者のモチベーションをできる限り高く維持するという管理力も求められます。

 

 

 

この観点からみると若手技術者の専門性至上主義を”活用”し、
技術的な知識や知見を新たに習得させることで成長を実感させる、
ということは必要不可欠な取り組みです。

 

 

 

上記のような知識や知見習得に向けた進め方の一例をご紹介します。

 

 

 

 

 

技術的な知識や知見を習得させるには”自主的”に学ぶことを促すのが最善

 

元技術者が多い技術者チームのリーダーや管理職も、ある意味専門性至上主義にとらわれていることが多く見られます。

 

 

それは、

 

「自分たちが技術的な指導を担わなくてはならない」

 

という思い込みとして出ることがあります。

 

 

 

リーダーや管理職が技術的な教育を担いすぎると負担になる

 

面倒見のいいリーダーや管理職であれば、上記のような考え方のもとでOJTにて若手技術者を指導することも可能だと思います。

 

 

しかしながら、管理業務に追われながらの教育はかなりの負担になるはずで、
この負担が若手技術者へのいら立ちへと変化することもあります。

 

言葉がきつくなり、できないことに対して必要以上の叱責をするようになるかもしれません。

 

 

これは指導というよりも感情的な重みが増している状況といえるでしょう。

 

 

 

ただ、このような動きが出ている時点でリーダーや管理職が強い当事者意識を持っていることの裏返しでもあります。

 

 

よって、このようなやり取りがある時点で技術者育成という観点では”前進している”と言えます。

 

 

 

これに対して例えば

 

 

「自分の所に聴きに来ない若手技術者が悪い」

 

 

といったように突き放す考えを示すリーダーや管理職も一定数います。

 

 

 

 

これは歩み寄りというコミュニケーションの苦手で、
かつどちらかというと技術力の高いリーダーや管理職によくみられる言動です。

 

 

 

より状況が深刻なものとしては、技術者育成という観点を持たず

 

 

「部下に対する技術的な育成は一切行わずに放置する」

 

 

というリーダーや管理職もいるかもしれません。

 

 

 

 

どちらの姿勢も若手技術者からは徐々に信頼を失うでしょう。
当然、失ったことに気がついたリーダーや管理職が歩み寄ることも少ないと思います。

 

 

このようにして、技術チームが徐々にバラバラになっていきます。

 

 

リーダーや管理職と言えども人間ですので、
一人でできる業務量に限界があることを考えれば、
後半で紹介したような言動について望ましくありませんが、
やむを得ない部分もあるでしょう。

 

 

 

この悪循環に陥らないようにするための対策について考えます。

 

 

 

”教える”から”学ぶきっかけを与える”へ

 

技術者育成というのは大変足の長い取り組みであるため、

 

「継続性」

 

が生命線とも言えます。

 

 

 

この継続性を生み出すにあたって大変重要なのが、

 

 

「学ぶきっかけを与える」

 

 

ということです。

 

 

 

一言で言えば、若手技術者が”能動的”に学ぶという流れを作るのです。

 

 

 

 

 

自分で学ぶ手段を知らない若手技術者も多い

 

一般的な理系の大学や大学院では、自ら学ぶための教育を受けます。

 

 

特に研究室に所属すれば、指導教官の指導を受けながらも自ら調べることを求められるのはそのような理由です。

 

 

 

最近は高校教育に加え、義務教育でもその傾向がみられることから、
教育的な観点からも能動的に学ぶことを推奨する潮流はできつつあるとの理解です。

 

 

 

しかし教育を受けてきた環境の違い、本人の意識や理解力の違いといった、
複数の”違い”という要因によって、
自分で学ぶために何をすべきかがわからない若手技術者もそれなりに存在するのも事実です。

 

 

 

ここで必要なのは、

 

 

「具体的にどのようにすれば若手技術者自身で技術学習ができるのか」

 

 

ということをリーダーや管理職が示すことです。

 

 

 

 

 

若手技術者の能動的な技術学習に関連学会の発行する参考図書を活用させるのが一案

 

能動的な技術学習に向け、若手技術者に示すべき提案は、

 

 

「自社技術に関連する学会を調べ、そこが発行している参考図書を購入する」

 

 

になります。

 

 

 

学会の参考図書はその道の専門家が執筆しているため技術的な質が高い

 

民間の参考図書にもいいものはたくさんありますが、
その内容が妥当か否かを判断するには中身を精査する等の対応が必要となります。

 

 

これをリーダーや管理職が行うのは大変かもしれません。

 

 

若手技術者では判断そのものが難しいでしょう。

 

 

このような技術図書の質をある程度担保できるための選択肢として望ましいのは、

 

 

「学会の発行する参考図書」

 

 

を選ぶことです。

 

 

 

若手技術者が技術的な知識や知見を習得したい技術領域に関連する学会を調べ、
その学会の発行している参考図書を選択するのが良いと思います。

 

 

学会では常に最新の技術理論の研究が学会誌等で発表されることに加え、
その道の専門家が参加されたうえで講演会等を開催して技術的議論を重ねる等、
技術的な更新が継続的に行われるのが一般的です。

 

そこには高い技術専門性を有する方々が集まる傾向があり、
そのような方々が力を合わせて発行する参考図書は技術的本質を明快に述べているものが多いのです。

 

これが学会発行の参考図書を推奨する理由になります。

 

 

 

ただ注意すべき点として学会と一言で言っても玉石混交ですので、
発行する学会誌を読んで継続的に高いレベルの研究が行われているのか、
講演会などのイベントを多く開催しているか等の確認は必要です。

 

 

本点の確認はリーダーや管理職に加え、若手技術者でもある程度可能だと思います。

 

 

 

参考図書は会社の経費ではなく若手技術者の自費で購入してもらう

 

これは経済的理由というよりも、習得効率というのが主たる理由になります。

 

学会の参考図書は高額なものもあり、若手技術者が購入するには大変なケースもあります。

 

念のため加筆しておくと、ハンドブックなどデータの確認や参照に使うようなものは経費で購入し、企業の知的情報として管理すべきです。

 

しかしながら、若手技術者の知見習得という所に導入理由があるのであれば本人が購入することが望ましいと考えます。

 

 

自らの懐を痛めて購入したものは大切にし、
それを活用しようとするからです。

 

 

 

投資なしに得られた技術情報はその価値が本人の中で相対的に下がる傾向があります。

 

 

折角専門家の方々が執筆した参考図書を手に入れるのであれば、
それを活用して技術的な知識や知見を習得する角度を高めるべきだと考えます。

 

 

 

これには、若手技術者も自らの懐を痛めるという投資が不可欠です。

 

 

 

 

 

技術専門的な問いかけや議論をする機会を若手技術者に与え、購入した図書を活用する流れを作る

 

能動的に学ぶ技術者は基本的に上述のきっかけを与えれば十分ですが、時に購入した参考図書を活用する機会を若手技術者に与えるのもリーダーや管理職の重要な仕事です。

 

例えば実際の技術業務において、
技術評価の結果として得られた事象の考察を求めるのが一案です。

 

得られた結果を考察にするには、
技術的な理論を見直す必要があるためです。

 

 

 

このようなやり取りを通じて若手技術者は必要に応じて能動的に調べる、
という学び方を理解することになります。

 

 

 

 

 

 

いかがでしたでしょうか。

 

 

技術者の抱える専門性至上主義は確かに厄介ですが、
上記のように学ぶことで成長しているという実感を持たせることで、
業務に対するモチベーションを高める効果が期待されます。

 

 

 

加えて感覚論になりがちな企業における技術業務に、
技術的な理論を取り入れた考察を加えることに一役買うことになります。

 

 

 

これが企業の技術力向上の源泉となるイメージをもっていただけるのではないでしょうか。

 

 

自社の若手技術者の戦力化に向けた戦略検討の一助になれば幸いです。

 

 

 

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