若手技術者にデジタル人材の役割も担ってほしい

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若手技術者にデジタル化を担ってもらいたければ目的、要素、工程の明確化が大前提

 

 

製造業企業にあってもデジタル化に向けたデジタル人材の採用や育成は喫緊の課題です。

 

製造業企業でもデジタル人材を採用したいという動きは活発な一方、
そもそもそのような方々は世界的に引く手数多で、
なかなか採用までこぎつけられないのが実情です。

 

 

この課題の解決に向けた一つの方向性が、

 

「若手技術者をデジタル人材として育成する」

 

というものです。

 

 

 

特に採用活動に苦戦が強いられ、
さらに一人に複数の役回りを担ってもらうことが必然となる中小企業で検討が進められています。

 

 

これにより本当にデジタル化が実現できるのか、
そしてそもそもデジタル化が本当に必要かつ効果的なのかという議論はありますが、
企業の将来的な選択肢を増やす観点から、動きそのものとしては妥当だと個人的には考えています。

 

 

 

今日は若手技術者をデジタル人材として育成することについて、
技術者育成の観点からリーダーや管理職が行うべきことを考えます。

 

 

 

 

 

本コラムに関連する当社事業:Webを活用した技術情報発信による技術ブランド向上支援

 

 

 

 

 

 

製造業企業におけるデジタル化とは

 

そもそもトレンドワードとして先行しがちなデジタル化が、
製造業企業においてどのようにとらえられているのかを最初に触れます。

 

 

情報として少し古いですが、以下の情報を参考としました。

 

 

 

※参照情報

 

第3節 製造業の企業変革力を強化するデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進

製造基盤白書(ものづくり白書)/経済産業省

 

 

 

製造業企業におけるデジタル化という視点から、
概要を述べたいと思います。

 

 

 

期待されるのは複数部門の連携を促すインフラ構築

 

これは実際に当社も取り組んだこともあるためよくわかりますが、

 

「複数部門の連携を促すインフラの構築」

 

がデジタル化の狙いにあると述べられています。

 

 

この部門間連携によってもたらされるメリットを「エンジニアリングチェーン」という単語で表現しています。

 

 

 

社内の技術部隊連携だけでなく、社外の市場ニーズのフィードバックも含まれることから、
かなり幅広い意味で使われている単語だと想像します。

 

 

 

各部門をまたいだ全体最適を目指すシステム思考

 

私は知らなかったのですが、

 

「システム思考」

 

という単語が上記参照資料で述べられています。

 

 

色々書かれていますが、結局のところ

 

「個別部門の最適化に終わらず、俯瞰して複数部門全体を見渡せる力」

 

という意味で使われていると考えます。

 

 

 

 

技術者育成に置き換えれば、

 

「論理的思考力の向上による、俯瞰的視点からの思考」

 

といったところでしょうか。

 

 

 

尚、技術者育成の観点では「思考」でとどまることは推奨していません。

 

思考したこと、つまり考えたことを

 

「どのように実践するかを具体的に述べ、実行に移す」

 

事が最重要と考えています。

 

 

 

必要な知識として数学が述べられている

 

上記経産省の資料によると数学が必要と述べられています。

 

 

当社の指定する普遍的スキルの一つである

 

「グローバル技術言語力」

 

でもあるため、ここは強く共感できます。

 

 

 

ただ、資料中でいうと「数学」の概念として、

 

「純粋数学、応用数学、統計学、確率論、さらには数学的な表現を必要とする量子論、
素粒子物理学、宇宙物理学なども含む広範な概念」

 

※参照元:製造基盤白書(ものづくり白書)/経済産業省

 

 

とのことで、かなり専門的な部分まで含める意図があるようです。

 

 

 

必要とされる数学の領域は技術業務によって変化

 

同引用元では製造業においてデータ分析、モデリング、シミュレーションに発揮されるとあります。

 

 

もちろん一理あるのですが、
数学力をやみくもに広げる必要はないでしょう。

 

 

データ分析は基本的な統計学がわかることが最重要である上、
さらに言うと分析すべき軸をブラさずに、
データ整理に必要なパラメータは何かを選定、設定することの方が重要です。

 

モデリングについても熱伝導や電気特性、
弾性率やポアソン比等の数学以外の知見も必要になります。

 

 

拘束条件や境界条件をどう決めるのか、といった経験則も重要でしょう。

 

 

幾何学はモデリングの役に立つかもしれませんが、
どちらかというとモデリングはモデルとする実物に対する想像力が重要で、
この能力は数学という枠組みでは議論できない部分も多いです。

 

 

さらに言うとシミュレーションについても、
一例でいえば応力解析で用いるのは微積や行列が主となります。

 

 

ただシミュレーションに依存するのは大変危険で、
実物との相関を常に確認し、予測精度がどの位置にあるのかを理解するという信念が、
技術者にとっては重要です。

 

 

 

後半で述べたことが前提としてご理解いただけているのであれば、
数学がデジタル化に必要だという文言を正確に扱えていると考えます。

 

 

 

国としてもデジタル人材を製造業で増強することを推進したい

 

内容の詳細は別として、国の戦略としてデジタル人材を製造業でも増やしたいのは間違いありません。

 

 

そして、技術者育成の観点からもこの戦略に異存はありません。

 

 

では前述の通り若手技術者にデジタル化を担ってもらうにあたり、
何が重要かについて考えます。

 

 

 

 

 

製造業の技術業務のデジタル化に必要なのは業務の分解と整理

 

デジタル化というと多くの方がプログラミングを思い浮かべるようです。

 

エンジニアと呼ばれることの多いSE等の方々は必要でしょう。

 

 

しかし製造業の若手技術者にプログラミングを教えるというのは、
デジタル化の基本部分を担えということになります。

 

 

業種によっては必要かもしれませんが、
ノーコードのアプリケーションが増え、
またAIがそれ相応のプログラムを作成できる今、
そこに製造業の若手技術者をあてがうのはあまり望ましいとは言えません。

 

 

そのような事よりもデジタル化したい製造業企業がやるべきは、

 

「デジタル化で何をしたいか、それに向けて必要なパラメータと想定される工程の明確化」

 

です。

 

 

 

上記こそが若手技術者育成以前に、
技術チームをまとめるリーダーや管理職がデジタル化に向けてやるべきことになります。

 

 

 

デジタル化はあくまで手段のため目的が最重要

 

デジタル化は多くの観点でメリットがあります。
しかしそのメリットは

 

「デジタル化する目的が明確であることが前提」

 

となります。

 

 

 

何をしたいかが明確だからこそ、
メリットのあるデジタル化が実現できます。

 

 

 

製造設備の温度、圧力、送り速度、回転数、振動などの各パラメータを、
自動的に記録し、プロセスパラメータ変動を把握することで、
設備の不具合や製品の市場問題の原因究明の際、
製造設備に原因があるかを究明したい。

 

 

 

上記のような目的は当社が行ったデジタル化への取り組み目的の一例です。

 

 

 

このような目的が明確でないままデジタル化という単語が独り歩きすることは、
製造業企業にとってメリットが殆ど無いでしょう。

 

 

デジタル化というのは手段です。

 

 

手段は明確な目的があって初めて機能することを忘れてはいけません。

 

 

 

 

目的実現に影響を与える要素が何かを明らかにすることでデジタル化に必要なシステム設計ができるようになる

 

次に重要なのがその目的を実現するにあたり、
影響を与えるであろう要素、
すなわちパラメータが何かを明らかにすることです。

 

 

前述の設備に関する例であれば、

 

・圧力
・送り速度
・回転数
・振動

 

がパラメータとなります。

 

 

 

間接部門とのやり取りの事例であれば、例えば購買部門であれば

 

・予算確認、承認ルート
・上記ルートに対するメール通知
・金額の入力と修正
・発注先情報の引用と引用データ項目
・発注元に対する情報の提供方法と提供項目
・納期設定に必要な日程の入力と出力

 

といったものがパラメータといえると考えます。

 

 

どの要素を抑えるべきかがわかれば、
システム側でその要素をパラメータとして出入力できる設計が必要だ、
ということがわかります。

 

 

この辺りの整理ができないままだと、
デジタル化に向けたシステム設計は迷走を続けることになるでしょう。

 

 

 

フローチャートを主としたデジタル化したい工程の明確化は丸投げではなく自社内で初期設計するのが基本

 

フローチャートを主としたシステム設計思想を作成するのが、
デジタル化に向けた初期ゴールとなります。

 

 

このように流れができれば、仮にシステム設計を外注するにしても

 

 

「デジタル化で何をしたいのかが第三者に理解できる」

 

 

ためシステム設計が大変楽になります。

 

 

 

 

骨組みができていれば、あとはそこに必要なプログラムやアプリケーションをあてはめ、
フローチャートに基づいたロジックツリーを骨格としたシステムを作ることができるからです。

 

 

 

ここまでの取り組みを技術チームとしてまとめ上げるのが、
技術チームのリーダーや管理職の役目です。

 

 

その対応として若手技術者が行うのか、
他の中堅、ベテラン技術者が行うのか、
はたまた外注企業に依頼するのか等の具体的推進法を考えるのはこの後になります。

 

 

 

 

 

まとめ

 

製造業企業にとってデジタル化は不確定要素の多い将来に向け、
そのリスクヘッジとなる可能性があります。

 

国もこの流れを後押ししています。

 

 

デジタル化に向けては関連人材の採用が難しいことから、
中小企業において柔軟性のある若手技術者に担ってもらうことについて、
検討を開始している事例もあります。

 

 

ここで忘れてはいけないのは、
デジタル化に向けて必要なのは目的、
その目的実現に影響を与える要素、
そしてシステム設計につなげる工程という、
3点の明確化が大変重要であることです。

 

 

技術者育成でいうと「企画力」に該当する部分でしょう。

 

 

 

デジタル化に関する本格的な取り組みは、
上記の企画が終わった時点で始めることが、
結果的に近道になると考えます。

 

 

 

 

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