データの相関を回帰分析を用いて理解させたい
公開日: 2026年6月29日 | 最終更新日: 2026年6月28日
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今回は取得したデータの相関を回帰分析を用いて理解させるにあたり、
リーダーや管理職の行うべき対応を考えます。
データの相関を理解するのは技術者の基本業務の一つ
製造業の企業に属する技術者にとって、
得られた実データの相関を理解することは基本業務の一つと言えます。
研究開発はもちろんですが、
品質保証や製造部門、生産管理部門においてもその重要性は変わらないでしょう。
データの相関を理解するには回帰分析を用いるのが一般的
技術者がデータの相関を評価するにあたり最も良く用いられるのは”回帰分析”です。
回帰分析の定義を改めて述べます。
ここで”Web検索や生成AI”を使わないことも、
技術者育成ではポイントといえます。
若手技術者だけでなく、リーダーや管理職も同様です。
<引用:ここから>————
yは変数x1、x2…xpのある関数fで記述すると期待され、
i番目の測定による実際のデータはこれに測定誤差が伴って、
yi=f(x1i,…,xpi;β)+εi(i=1,….,n)
のようにあらわされる場合を考える。
βは未知パラメーターのベクトル、系統誤差が無い場合(n-1Σεi→0、n→∞)、
fをyとx1,…,xpの回帰関係という。
もっと一般的には、確率変数X1,…,Xpの関数Yに対して条件付き期待値E(Y{X=xi,…,Xp=xp)をx1,…,xpの関数とみてYのX1,…,Xpに対する回帰関係というのである。
データに基づいてβの推測を行ない、回帰関係fを求めるための統計学的手法を回帰分析という。
yを目的変数または従属変数とよび、(x1,…,xp)を説明変数または従属変数とよぶ。
(後略)
<引用:ここまで>————
※参照情報
岩波 理化学辞典 第5版
nを∞にした際に誤差が0に収束していくという表現は、
改めて”なるほど”と感じる部分がある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
上記引用情報中で回帰分析として技術者が力を発揮すべきは、
「データに基づくベータの推測」
に該当します。
前出の技術者の業務において、
どのようなものが回帰分析につながるでしょうか。
研究開発であれば条件違いによる結果の変動を見る
研究開発でいえば条件違いによる結果の変動がその代表例です。
前者が説明変数、後者が目的変数です。
機械加工でいえば回転数や送り速度、
化学でいえば添加剤や硬化剤濃度や温湿度条件など、
参照情報で引用した表現でいう説明変数に該当します。
上記に該当する目的変数は、
前者が表面粗さや寸法誤差の標準偏差、
後者が化合物の強度や弾性率がそれぞれの該当例です。
品質保証であれば外的要因と不良率変動をみる
量産を行う製造部門では基本的に一定の条件で物を作り続けることを基本とします。
プロセスパラメータは固定ということです。
しかしながら気温変化や作業者の違いといった外的要因の変化が、
生産品の不良率変動に影響を与える可能性があります。
このような相関関係をみるというのは不良率を下げるという意味で、
品質保証の重要な仕事の一つです。
以下、技術者育成を念頭にしながら若手技術者に回帰分析を行わせる際の留意点を述べます。
ブラックボックスが無い状態で算出を行う
若手技術者に回帰分析を行わせる際、
技術者育成を目指すのであれば死守させたいものがあります。
それが、
「いざとなれば手計算で再現できる状態で進める」
です。
技術者の普遍的スキルを若手技術者に身につけさせる
Excelの関数やアドインを使うことはNGです。
数学の基本理論も知らずに統計解析のソフトを使うのも推奨できません。
これらを使って回帰分析をしても技術者の普遍的スキルは向上しません。
最近は生成AIを使ってこの辺りを効率的に行おうという考えもあるようですが、
若手技術者の本質的な成長を促したいのであれば禁止です。
当たり前と言えば当たり前ですが、上記の行動は
「その当事者が”技術者である必要がない”」
からです。
若手技術者に立ち位置を確立させたいのであれば、
”作業者”に陥らせてはならないのです。
技術者として経験を積み、統計学の基礎理論を身につけた後、
ある程度のボリュームの回帰分析を行うのであればExcelのアドインや統計解析のソフトを使うのもありでしょう。
若手技術者のうちは”途中経過のわからない”ソフトやアドインに依存せず、
まずは一つひとつ手で計算をする”非効率”をあえて経験することが重要です。
なお、生成AIはそもそもその妥当性に疑問符が付く上、
過去のコラムでも述べたような副作用の方が大きいため特に若手技術者の間は技術的な仕事には使用させない、
というリーダーや管理職の姿勢が重要です。
※関連コラム
生成AIで得た技術的専門知識の妄信と依存で孤立化する若手技術者
手計算による非効率な回帰分析を技術者育成につなげるために
上記の手計算は単に手間をかけさせることが狙いではありません。
重要なのは、
「若手技術者自身のペースでの計算で無理をさせない」
ことにあります。
回帰分析に関連する数学的理論の習得スピードは個人差が激しいです。
にもかかわらず昨今は計算ツールが発達しすぎて、
若手技術者の学習能力を大きく上回る高度なことがあっという間にできてしまうのです。
例えば何故平方和では平均値と個別値の差を二乗で計算するかについて、
何も知らない若手技術者でも例えばExcelでSUMSQ関数を使えばすぐに答えが出てきてしまいます。
このような手法では、かなり意識の高い若手技術者を除き、数学的理論を考えることもないでしょう。
結果、できることに対してその基礎理論の情報量が多すぎてしまい、
多くの若手技術者にとって回帰分析は”作業”となります。
これでは技術者の普遍的スキルであるグローバル技術言語力が育たず、
統計学を使った技術的思考の応用範囲が広がらないのです。
最初はゆっくりでも若手技術者個々人のスピードに合わせ、
当人のペースで回帰分析の背景にある理論をおさえながら、
目の前の数字に向き合うことが求められます。
回帰分析に関する理論と練習問題、並びにその回答が記載された専門書を活用する
具体的なアプローチを示します。
若手技術者には回帰分析に関する理論、そして練習問題と解答が掲載された専門書を用い、
電卓を用いながら手計算をさせることから始めます。
数学的理論の記載が好ましいのはグローバル技術言語力鍛錬が狙いです。
練習問題とその回答が必要なのは自分の手で数字を一つひとつ理論に沿って計算し、
それが解答と合致するかを”自分のペース”で確認する自主学習ができることにあります。
非常に手間がかかる部分ではありますが、
これを若手技術者のうちに経験させることが重要です。
若手技術者は人によっては未知の部分を学習する思考回路が未熟な場合もある一方、
その若さゆえに経験が少ないため先入観がなく、
柔軟性と体力も持ち合わせています。
そのような素晴らしい期間の初期に、
「回帰分析の理論を学び、即練習問題で手計算の上で結果を解答と照らし合わせる」
という癖をつけさせ、未知の技術を能動的に理解する手法を身につけさせるのです。
回帰分析でいえば例えば私が良く活用していたのは以下の書籍です。
※参考書籍
基本理論を丁寧に記述しており、練習問題も多く掲載している良書です。
比較的古い紙媒体の専門書は技術者育成の観点でも素晴らしい教材になりやすい傾向にあります。
紙媒体の専門書の重要性は過去にも触れたことがあります。
※関連コラム
若手技術者に技術の本質を理解させるための具体的なアプローチがわからない
回帰分析の基本は線形回帰から
回帰分析に限りませんが、数学的な分析はシンプルに行うのが鉄則です。
私が技術者育成の指導において回帰分析のやり方を教える際は、
線形回帰、つまり直線で回帰できないかを基本とすることを徹底してもらうようにしています。
様々な学会で
「新しい理論の発見」
といったふれこみの発表で紹介される数式が、
目のくらむようなパラメータで埋め尽くされていると、
「本当に新しい理論なのか」
と疑問に思います。
しかもそのパラメータが累乗になっていると、
「何を本質であると言いたいのかが分からない」
というのが正直なところです。
人間が理解するには基本的にはパラメータは2つ、
多くとも3つであることが求められます。
平面図、または三次元図で表現できるのがここまでだからです。
パラメータが多いほど、技術的な本質を捉えられていないと考えるべきでしょう。
以上のことから、若手技術者に回帰分析を行わせる際は、
「まず線形回帰で説明できないか」
ということを出発点にすることが望ましいです。
線形回帰といっても様々
少しだけ数学の話をしたいと思います。
線形回帰というと最小二乗法を思い浮かべる方が多いと思います。
ここでいう最小二乗法でイメージされるのは、
「XY軸に記載された近似線に対して、実測点の”Y軸方向への誤差”が最小になるようにする」
であると思います。
実はこれは最小二乗法の”一種”であり、数学的には Ordinary Least Square になります。
しかしOrdinary Least SquareはY軸方向の誤差しか表現できていません。
X軸方向の誤差は考慮しなくていいのか、
と考えるのが技術的には重要です。
これを考慮したものが、
「XY軸に記載された近似線において、”実測点から当該線への垂直方向の誤差”が最小になるようにする」
ことを基本理論とした Total Least Square になります。
実測点から近似線に向けて引いた垂線の長さを近似線との誤差と定義し、
この誤差を最小にするよう回帰分析を行うことで、
X軸、Y軸両方のパラメータを考慮できるようになります。
Total Least Squareはベクトルの考え方を使って回帰分析を行いますが、
手計算でも計算をすることが可能です。
既に触れた平方和に加え、x、yについてそれぞれの平均値との差分を掛け合わせ、
それを積算する偏差積和を使って下式で計算します。

複雑に見えますが、式自体は実はシンプルです。
この辺りの基礎理論は私が過去に連載記事として解説していますので、
詳細を知りたい方はそちらをご覧ください。
※関連連載
「 機械設計 」連載 第三十六回 線形回帰分析である Ordinary Least Square と Total Least Square によるFRP設計許容線図作成とその比較
評価するデータを対数や平方根にすることで線形回帰できないかを検討する
技術者であればもう一つ持っておきたいのが、
「評価するデータを対数や平方根等に変更することで線形回帰できないか」
という思考回路です。
一見すると複雑な形状に見える線図も、
X軸やY軸、またはその両方の入力数値を処理することで、
直線近似できることもあります。
対数が生まれたのも、
「非常に桁数の大きな数字をどう簡単に扱うか」
が出発点です。
上記の通り、数学者ネイピアなどの先人たちも、
「いかに物事をシンプルに扱うかという”本質”」
に向き合っていたことがわかります。
複雑に見える状態から本質を抜き出すという考え方は、
技術者の普遍的スキルにも共通の重要なものです。
まとめ
データの相関を理解するにあたり、
回帰分析は技術的には鉄板の取り組みです。
しかし回帰分析と”言うのは簡単”ですが、
それをより適切により本質に迫る形で活用するには、
今回紹介したような線形解析へのこだわりや、
手間を惜しまない手計算を通じた数学的基礎理論の理解が不可欠です。
若手技術者には安易な手法で効率を求める前に、
愚直に自分なりのペースで取り組むことで数学力、
すなわちグローバル技術言語力を鍛錬する姿勢を身につけさせる必要があります。
このような一見すると時代遅れで非効率と言われるような手法は、
若手技術者に未知の技術を習得させる自己学習の型を構築させる、
技術者としての成長の根幹を育成する効果があります。
そのためにはリーダーや管理職も過去の経験だけに胡坐をかいているだけでなく、
自らもきちんと勉学に励み、若手技術者育成を通じ自らも成長するといった、
向上心が求められるといえます。
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