若手技術者が今の仕事が楽しいと発言していることへの懸念

公開日: 2026年5月4日 | 最終更新日: 2026年5月2日

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技術業務を楽しむだけでは、技術者としての本質的な成長は望めない

 

今回は若手技術者が今の仕事は楽しいと発言できている場合に、
リーダーや管理職が取り組むべきことを技術者育成の観点から述べます。

 

 

 

 

 

若手技術者に適切な技術者育成を行えている場合、当人が楽しいと感じることはあり得ない

 

これは断言すべきことなのではっきり述べておきます。

 

 

技術者育成を適切に行っている職場において、

 

「若手技術者が、仕事を楽しいという状況は絶対にありえない」

 

です。

 

 

 

統計学的に言えば、どのような検定を行ったとしても必ず帰無仮説が棄却されると言い切れます。

 

 

かと言って”つらい”のがいいかというとそれほど単純な話ではないため、
以下、社会背景的な部分も含めて補足をした後、
技術者育成を実現するために必要な対応を解説します。

 

 

 

 

 

昨今の様々な企業で垣間見えるホワイトハラスメント

 

マスメディアの情報だけでなく、実際に様々な企業で実感できる変化があります。

 

それがホワイトハラスメントの拡大です。

 

 

言葉の定義は様々ですが、以下のような情報はその一例といえます。

 

 

結果として企業がパープル企業になっていくという表現も興味深いです。

 

 

※参考情報

 

働き方用語辞典 「ホワイトハラスメント」/コクヨコラム編集部

 

働き方用語辞典 「パープル企業」/コクヨコラム編集部

 

 

 

このような状態が生じた理由については改めて説明するまでもありませんが、
”仕事が楽しい”と発言できる若手技術者の増加と無関係なものではないでしょう。

 

 

 

 

 

職場内のプレッシャーなどの”内圧”ではなく、顧客や協力企業からの”外圧”が重要

 

適切な技術者育成の枠組みにいる若手技術者が仕事を楽しいといえることは不可能と述べました。

 

 

これを読んだリーダーや管理職の中には、

 

「やはり、もう少し自分たちからプレッシャーをかけなければいけないのだ」

 

と感じる方がいるかもしれません。

 

 

 

ここで理解しておくべきは、
内圧と外圧という2種類の圧力を区別する重要性です。

 

 

 

リーダーや管理職が職権を使って圧力をかけるのが”内圧”

 

内圧の代表例が、リーダーや管理職、または年長者は社歴の長い技術者による圧力です。

 

 

    • 指摘を必要以上の叱責を交えて行う
    • 若手技術者からの依頼を後回しにする、対応しない

 

 

上記のようなものは内圧の一例といえます。

 

 

この内圧は人間が組織という中でそれを維持するにあたり不可欠のため、
否定するものではなく、また無くなるものでもないと思います。

 

人種や国を問わず、必然的に存在するものと言えばいいでしょう。

 

 

 

しかしはっきり言ってしまえば、このような内圧が技術者育成の中で、
最も本質的な技術者の普遍的スキル醸成に肯定的な影響を与えることはあまり望めません。

 

 

 

一方で成長する部分としては礼儀作法に加え、忍耐向上や人を見る目の醸成といった、
一般社会人としての成長にはつながります。

 

 

このような見方をすれば、内圧は一般社会人としての成長は否定できない側面もあると考えます。

 

 

 

本項の冒頭の様に手ぐすねを引いて若手技術者を待つ、
といった考えを持ったリーダーや管理職は本点(内圧は技術者育成ではなく、一般社会人としての成長の側面が強い)は理解しておく必要があります。

 

 

加えて、最も良くないパターンのリーダーや管理職の対応は”放置”です。

 

改めてリーダーや管理職の若手技術者に対する対応が、
よくある一般形態のどれかに当てはまらないかを留意することが求められます。

 

 

※関連コラム

 

技術者が陥りがちな人材育成パターン

 

 

 

社内のパワーバランスと無関係な顧客や協力会社の”外圧”は技術者育成に弊害となる要因を除外できる

 

ここまで述べてきた内圧と異なり、主に社外が相手となる外圧は、
一般的な社会人としての成長に加え、技術者育成の要素が含まれることが多いです。

 

 

その最大の要因が、

 

「社内のパワーバランスとの無関係さ」

 

です。

 

 

要望を出す、指摘をする、依頼をするといったコミュニケーションの基本に、
発注側と受注側というビジネス関係は当然存在しますが、
社内の力関係によるバイアスのような近い関係性故に生じる不均衡は生じにくい。

 

 

そしてある程度のレベル以上の顧客や協力会社が相手であれば、
やり取りするにあたり技術業務の目的や納期も明確になるのが一般的です。

 

 

純粋に技術者育成を考えた場合、
技術者の普遍的スキル醸成にはパワーバランスへの気遣いといった部分を排除したうえで、
コミュニケーションを基本とした相手とのやり取りによって目的を理解し、
同時に要望の主要素となる納期を意識した技術業務に没頭することで実践経験を積み重ねたほうが、
はるかに効率的なのです。

 

 

技術評価計画を一例に、技術者の普遍的スキル醸成には最終到達点を含む目的や、
それに向けて技術業務を進めるための時間軸の感覚が重要であることを過去のコラムでも述べました。

 

このような感覚を体感できるのは実践しかなく、
組織故に生じる障害が低減された外圧環境でのOJTが技術者育成として適していると言えます。

 

 

※関連コラム

 

若手技術者の暴走や立ち止まり回避に効果的な 技術評価計画

 

 

ここから、今の仕事は楽しいと発言する若手技術者に対する対応を、
技術者育成の観点から考えます。

 

 

 

 

 

今の仕事が楽しいと発言する若手技術者の推定される状況

 

今の仕事が楽しいと発言できる若手技術者が発生する原因として、
基本的にはホワイトハラスメントの要素によるものが大きいと考えます。

 

若手技術者本人の状況や力量に対して過剰に配慮し、
無理のない範囲で業務を与えているのはその典型例ではないでしょうか。

 

 

 

楽しいという単語の中に”楽(らく)”の要素は入っていないか

 

若手技術者の言う楽しいの意味を改めて考えます。

 

 

技術者育成の視点から最も危惧されるのは、

 

「楽しいの中に”楽(らく)”の意味が入っていること」

 

です。

 

 

 

技術者育成という基本方針から言えるものとして、

 

「楽(らく)と感じる技術業務推進環境では技術者として絶対に成長しない」

 

というものがあります。

 

 

 

若手技術者は早い段階で自らの技術的限界を知ることが成長の足掛かりとなる

 

前述の理由ですが、

 

「自らの技術的限界を知る機会を失う」

 

ことに尽きます。

 

 

 

技術者が不偏的キルをみにつけ、自発的に行動し、課題解決できる専門家へと成長させるには、
自身が若いうちに自らの技術的限界を知ることは”不可欠”です。

 

 

しかもこの技術的限界を知ることができるのは
”若手技術者のうち”だけなのです。

 

 

年齢を重ねれば考え方も程度の差はあれ保守的になる上、
身体はもちろん、何より脳の体力(耐力)が低下します。

 

 

 

このような状態になってしまってからでは、
自らの技術的限界に到達することは絶対にできません。

 

限界を知るための無理ができないからです。

 

そして、何が無理なのかを冷静に考える経験もありません。

 

自らの技術的限界を知ることは、
”経験の無さと若さ”を兼ね備えた若手技術者”だけ”に与えられた特権なのです。

 

 

 

リーダーや管理職は若手技術者の限界を知る機会を摘むような不要な配慮をしない

 

しかし昨今の労働施策総合推進法の改正を含めた、
労働者に対する配慮への一側面だけを切り取ったような過度な配慮が不可欠な社会環境となりました。

 

 

特に給与や労働時間に関する取り組みは定量的かつ分かりやすいため、
多くの企業で給与の増額と当該時間の圧縮、それに付随する福利厚生を厚くする流れが生じていると感じます。

 

 

 

リーダーや管理職は上記の状況を鑑み、企業方針に則り行動することで、

 

「若手技術者の限界を知る機会を摘んでしまっている」

 

可能性があります。

 

 

 

  • 無理はさせない
  • 自由や自主性を重んじる

 

 

どちらも聞こえはいいですが、若手技術者にとっての成長にははっきり申し上げて無意味です。

 

 

 

技術的限界を知るには、”無理”という単語を頭に浮かべる前に手足が動いていなければなりません。

 

 

同時に、”自由や自主性”といった一歩引いたような単語をイメージする余裕は、
若手技術者にはないのが普通です。

 

 

この辺りを配慮する時点で、若手技術者が自らの限界を知る機会を摘んでいることのイメージが何となくわくのではないでしょうか。

 

 

 

若手技術者への配慮は必要だが、それよりも組織設計と技術業務企画・配分が重要

 

上記の流れは悪いことばかりではありませんが、
それよりも信頼関係を基本とした風通しのいい組織設計や、
技術的な成長を期待できる目的と納期の明確な技術業務の企画と若手技術者への積極配分の方が、
技術者育成という意味ではリーダーや管理職が取り組むべき業務の本質だと感じます。

 

 

 

自分の技術的限界を知ったその先に、技術者の普遍的スキルを高める段階がある

 

若手技術者が自分の技術的限界に到達したときに痛感するのは、

 

「一人で頭で考えても何も進まない。まずは前進しないと何もわからない。」

 

という事実でしょう。

 

 

 

これを”実感”することは本当に大切なことです。

 

 

 

自分の技術的限界に到達した技術者が共通して持つのはこのような実体験であり、
ここに達した時点で(若手)技術者たちは、

 

「専門性至上主義を捨てる(抑える)」

 

ことができます。

 

 

 

技術業界不問の技術者の普遍的スキルを高める準備は、
こうして初めて整うのです。

 

専門性至上主義が技術者の普遍的スキルの成長阻害要因になることは、
過去の連載でも述べています。

 

 

※関連連載

 

第2回 普遍的スキルの鍛錬を阻害する技術者の癖 日刊工業新聞「機械設計」連載

 

 

 

 

 

技術業務経験が浅いうちに若手技術者に楽(らく)をさせずに取り組ませたい技術業務

 

ここまで述べてきた通り、
若手技術者に成長を促すのであれば、
技術業務経験が浅い若手技術者のうちに自らの技術的限界を気づかせる適切な技術業務を与える必要があります。

 

 

 

目的と到達点、そして納期が明確な対外技術業務が妥当

 

結論から言うと、

 

「目的と到達点、そして納期が明確な対外技術業務」

 

が妥当です。

 

 

 

目的や到達点が不明瞭な技術業務では、若手技術者が右往左往してしまいます。

 

これも含めて育成だというのはあまりにも乱暴でしょう。

 

そこから含めて若手技術者にやらせるのであれば、
リーダーや管理職の方々自身の存在意義が問われることになりかねない覚悟が必要です。

 

 

目的と到達点を主とした技術業務設計は、
リーダーや管理職がきちんと若手技術者を支援しながら明確化することが不可欠です。

 

 

 

目の前の技術業務に必死になると自分の技術的限界が見えてくる

 

このようにして狙いが定まった技術業務を、
若手技術者は”我武者羅”に取り組む姿勢が求められます。

 

 

すると、自分の力ではどうにもならない部分が多く出てきます。

 

  • ・調べても、生成AIと議論してもわからない。
  • ・対外業務故、甘えも許されない。
  • ・明確な納期もある。

 

そこで必死にもがき、苦しむという経験をすると思います。

 

 

これが若手技術者が技術的な限界を知るための典型的な状況といえます。

 

 

 

リーダーや管理職は支援はするが、主担当は若手技術者とする

 

ここでさらにいい意味で追い打ちをかけるのが、
”主担当”という単語です。

 

 

誰が何をやるという担当設定は重要な業務設計要素ですが、
前述の若手技術者の限界突破のためには技術業務の”主担当”を若手技術者にするのがポイントです。

 

 

主担当ですので、何かあれば状況を聴かれるのは若手技術者です。

 

 

この状態に持っていくことで、若手技術者に技術業務の主担当特有のプレッシャーをかけます。

 

 

上記のプレッシャーは冒頭述べた”外圧”となります。

 

 

 

結果として、若手技術者は”やりきらねばならない”状況になります。

 

 

いい意味で逃げ道をふさぐのです。

 

 

 

若手技術者を追い詰めないよう支援をする

 

リーダーや管理職は若手技術者を本当に追い詰めてはいけません。

 

 

相談されたときは真摯に助言をするなど、フォローをしてください。

 

 

若手技術者の力量的に無理なのであれば、
業務を再配分するといった対応をすることもリーダーや管理職は想定しなければなりません。

 

しかし、それは最後の最後です。

 

若手技術者が技術的ではなく心理的、体力的に限界に到達する可能性もあるので判断は難しいですが、
このぎりぎりの攻防が若手技術者に自らの技術的限界を知ってもらう扉を開く最短の道となります。

 

 

 

 

 

仕事は楽しいものではなく、”いやではないもの”と気が付けば及第点

 

若手技術者に伝えたいことを最後に述べます。

 

仕事が楽しいという発言は、百戦錬磨の経験を有するベテラン技術者のものであれば素晴らしいといえます。

 

それは自身の仕事に関する道筋を決めることができたという意味だからです。
本観点は実際にそこまで到達した技術者にしかわからない感覚でしょう。

 

 

しかし、若手技術者が仕事を楽しいというのは違和感しかありません。

 

 

私が指導をする若手技術者で、成長していると感じる技術者ほど仕事を楽しいとは絶対に言いません。

 

 

その理由は今回述べたことも関係している可能性があります。

 

 

 

では仕事は苦痛でなければならないか、というとそれも違います。

 

 

当然ながら若手技術者自身が主担当として推進する技術業務に対し、

 

「やりがいや成長実感」

 

を持てることは大前提といえるでしょう。

 

 

 

とはいえ、限界に到達することは若手技術者にとって大変苦しい。

 

 

 

落としどころは、

 

「いやではない」

 

という感覚です。

 

 

苦しいがやりがいもあり、自らが成長している実感もある。

 

 

その仕事を強いて言語化するのであれば”いやではない”だろう。

 

 

 

若手技術者がそのような発言をしたのであれば、
リーダーや管理職は適切な技術業務を企画し、それを若手技術者に与えていると同時に、
若手技術者の技術業務に対する意識は及第点に到達しているといえます。

 

 

 

 

 

最後に

 

私が話をする若手技術者の中には、自らがスキルアップができないのではないか、
と不安を吐露する方々もいます。

 

 

もちろんそのような不安に対しては真摯に耳を傾け、
必要であれば助言、提言を行います。

 

 

しかしそもそも論として、自らのスキルアップの有無について不安を覚えるということは、
それだけ余裕があるとも言えます。

 

 

 

今の仕事はつらく、苦しいが、いやではない。

 

 

 

そんな発言が今以上に多くの若手技術者から聴けるようになる日を期待したいと思います。

 

 

 

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