実験室や試験室の工具や器具が散乱している
公開日: 2026年2月9日 | 最終更新日: 2026年2月9日
タグ: OJTの注意点, メールマガジンバックナンバー, 技術者人材育成, 現場作業, 生産・量産

製造業企業における研究開発や試作に関連する部門が管理することの多い実験室や試験室。
その名の通り、技術業界問わず様々な実験や試験を行う場所になります。
今回は実験室や試験室で生じることの多い問題と、
若手技術者に対して必要な教育について考えます。
実験室や試験室では多種多様な工具や器具を使用する

技術者の行う研究開発や試作の各業務では、
世の中に無いものを作る、
技術評価を目的とした未知の現象の確認を行うといったことを行うため、
そのような現場に備え付けられている工具や器具は多種多様になるのが一般的です。
例えば機械系の企業であれば、ボルトを締めるメガネやコンビのレンチ一つとっても、
かなりの種類を備えていることが多いでしょう。
サイズも大きなものから小さなものまで多いはずで、
大きければ邪魔になり、小さいものだと紛失のリスクが高まります。
最初の頃は工具や器具の片づけが後回しになる若手技術者
若手技術者を見ていると、入社間もない時期はあまり片づけが得意でないことも珍しくありません。
より具体的には
「後片付けが後回しになる」
のです。
何かの実験や試験をやるにあたり、
使用する工具や器具を保管場所から取り出し、
作業を始めます。
ここで実験や試験を行う中で他の打ち合わせが入る、
確認すべき実験が追加で生じるといった、
他に何か対応すべき業務が入ることで、
この作業を一旦止めるとします。
そして、
「使い終わった工具や器具をそのまま」
にして、当該作業から離れるのです。
目を離した工具や器具は紛失や作業の障害になる可能性がある
工具や器具を使用する技術者は、
これらの”管理者”としての役割が求められます。
管理者の目から離れた工具や器具は放置状態となります。
この状態の現場に他の技術者が出入りすれば、
放置された工具や器具が紛失するリスクが高まるでしょう。
もしくは移動する導線上に大きな工具や器具が置いてあれば、
それは移動障害となり、それに接触して怪我をするリスクもあります。
このような工具や器具の放置は、
年齢や性別問わず、整理整頓の苦手な技術者で起こりがちなことですが、
特に若手技術者で生じやすい傾向があります。
何故でしょうか。
大学や大学院の研究室では整理整頓を厳しく指導されることは少ない
前出の様なことが若手技術者で生じやすいのは、
「大学や大学院の研究室では整理整頓を厳しく指導されることが少ない」
ことが一因であると考えられます。
当然ながら指導教官の方針によっては、この辺りを大変厳しく指導されることもあります。
個人的な感覚ですが、近年この辺りの指導が厳しくなっている印象を受けています。
例えば化学系であれば、無断での毒劇物の持ち出し等の問題もあって、
管理に関する要求が高まっていることなどがその背景にあると推測します。
生産拠点を有する製造業企業での工具、器具管理は研究室とは別次元に厳しい
特に生産拠点を有する製造業企業における工具、器具などの管理に対するルールは、
大学や大学院の研究室とは別次元に厳しいのが通常です。
生産現場では異物の混入や生産設備の故障、
ましてや現場作業者の安全を脅かすような事態は絶対に避けなければならないため、
現場の管理は徹底しています。
工具や器具を指定場所以外で使うこと、持ち出すことが禁止されることは当たり前です。
このような生産現場での考え方は、
それに付随する研究開発や試作といった現場にも影響を与えます。
生産現場の基本は研究開発や試作も同じという統一されたロジックが適用されるのが一般的で、
研究開発や試作にある程度の自由度を認めつつも、
工具や器具に対する管理といった生産現場にも共通する管理の考え方が採用されると思います。
生産現場を念頭に置いた工具や器具の管理に対する考え方は、
研究室時代のそれを想定している若手技術者にとって別世界に映るかもしれません。
若手技術者に工具や器具の管理方法を理解させ、実行させるには
ここまで述べてきた前提を念頭に、
若手技術者に対して工具や器具の管理方法を理解させるアプローチについて考えます。
工具、器具に関する多くの管理規定を一気に理解させ、実行させようとすると混乱する
リーダーや管理職の立場から言えば、
若手技術者に対して一刻も早く工具や器具の管理規定をすべて理解させ、
それを完璧に実行させることを目指すと思います。
この考え方に私自身も異存は有りません。
しかし、一気に理想に近づこうとして細かいことを一気に伝え、
それを実行させようとすると若手技術者は混乱するでしょう。
ではどのように伝えるべきなのでしょうか。
個々の工具、器具の管理は様々だが最重要点として伝えるべきこと
一言でいえば、
「一行動、一片づけ」
を最重要概念として伝えることにあります。
何か一つ工具や器具を出したら、
使わないものをその場で片づけるというイメージです。
これができると、工具や器具が無制限に出てくることはありません。
もちろん複数の工具や器具を使う場合はこの限りではありませんが、
通常はこの一行動一片づけで研究開発や試作業務が滞りなく進むことが多いことに気が付くと思います。
何より”行動”と”片づけ”を常にセットで考えることにより、
「工具や器具が散乱する」
という事態は起こらなくなります。
工具や器具の使用中や短時間現場を離れる際、それらを縦か横に並べるて”整列させる”だけでも暫定の片づけとなる
断続的に工具や器具を使うので、
都度しまうのはさすがに効率が悪いという場合もあるでしょう。
このような時に合わせて指導したいのが、
「整列させる」
ことです。
前出のレンチであれば、縦か横に平行に並べるといったイメージとなります。
雑然と置かれている場合と比べ、整然と並んだ工具や器具を他の技術者が触る可能性は大きく減るでしょう。
このように、暫定的な片づけとして整列させることを指導するのも、
リーダーや管理職が一行動一片づけを実行させるのに必要なことです。
片づけを常に意識できると、現場での技術業務の視野が広がる
そして技術者育成の観点から言うと、
もう一つ重要な要点があります。
それが、
「片づけを常に意識することは、技術業務推進時の視野を広げることにつながる」
という事実です。
若手技術者を含む技術者の多くは実験や試験を行っている間はそれにのめり込むことが多く、
視野が狭くなりやすい。
のめり込むことも技術的な発見や進展に重要なのは間違いありませんが、
それ以上に技術者にとって重要なのは俯瞰して自らの業務を見られる客観的視点です。
この視点は、まさに技術者の普遍的スキルである論理的思考力そのものです。
常に片づけを意識することは自らが使用している工具や器具がどこにあるか、
どの状態にあるかを客観的に見るために視点を上げる意識につながり、
結果として若手技術者の論理的思考力の鍛錬にもつなげることができるのです。
※関連連載
第3回 技術業務報告に必須の技術者の論理的思考力 日刊工業新聞「機械設計」連載
まとめ
製造業企業における工具や器具の管理を若手技術者に理解させることは、
研究開発や試作といった業務を滞りなく進めることはもちろん、
現場に出入りする他の技術者の安全にも直結する重要なことです。
製造業企業の生産拠点における工具や器具の管理に対する考え方は
大学や大学院の研究室で若手技術者が学ぶであろうそれとは別次元に厳しいものであり、
最初は彼ら、彼女らも戸惑うに違いありません。
最終的には社内の管理規定をすべて理解させ、
それを実行できるようになるまで若手技術者を指導することが、
リーダーや管理職に求められることに違いありません。
ただ一足飛びにそこまで到達することは困難でしょう。
ここは焦らず工具や器具の管理理解の本質である、
「一行動一片づけ」
を理解させ、それを現場で実践させることから行うことが肝要です。
常に片づけを意識することは、技術者の普遍的スキルである論理的思考力の鍛錬にもつながります。
安心、安全の現場作業を継続するための教育の一助としていただければと思います。
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