技術データを鵜呑みにしない

 

技術データが本物か常に疑い、鵜呑みにしない

 

 

 

技術者は技術業務において多くのデータに向き合うことになります。そのデータは数値やチャートが多いでしょう。

 

 

しかし若手技術者の多くは自分で取得したデータはともかく、
データを第三者に取得してもらったものを鵜呑みにしてしまうケースが大変多いのが実情です。

 

今回は若手技術者が技術データに向き合うべき姿勢について考えます。

 

 

 

 

 

技術データの鵜呑みは中堅やベテラン技術者にも蔓延

 

 

 

技術データの鵜呑みは、今や中堅やベテランの技術者も大差は有りません。

 

最近も技術データの鵜呑みが原因の一つとなった問題がマスメディアでも取り上げられています。

 

 

 

当事者である組織は、以下のようなプレスリリースを出しています。

 

 

「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」不適合に関する役員の処分について

 

このような事象を止められずに拡大させてしまったのは、
管理者がデータの信ぴょう性に大きな疑問を持たず鵜呑みにしてしまったことも一因と報道されています。

 

加えて驚くべきことに、若手技術者ではなく50代の研究者がその問題の生じた研究の主担当であったことが知られています。

 

 

今回取り上げるテーマについて、若手技術者はもちろんですが中堅やベテランの技術者も襟を正すべき内容といえるでしょう。

 

 

 

 

 

ソフトウェアや記録媒体の進化がもたらした利点と課題

 

ここ数年のソフトウェアと記録媒体の進化は目覚ましいことがあります。

 

ソフトウェアや記録媒体の進化により技術データの取得や解析を高速で行う、
また大量のデータを保存するということも容易になりました。

 

 

この進化が技術の進歩に大きく貢献したことに疑いの余地は無く、
今やインフラの一部となっているといっても過言ではありません。

 

 

その一方で、大量の技術データを取得する、そしてこれらのデータを解析するといったことを、
自らの目で確認した上で、自らの頭で考えるということを行う技術者が減りました。

 

 

 

データの数が多すぎる、そしてそのデータを用いた解析を高速で行うソフトの存在もあり、
一つひとつ確認をするという業務に意義を見出せないのかもしれません。

 

 

ソフトウェアのや記録媒体の進化が結果的には技術者を技術データの盲信者にする一因であり、
これが技術者にとって最大の課題といえるでしょう。

 

 

 

 

 

技術者がデータ盲信者から脱するには技術的業務について性悪説を主とした考え方にする

 

データ盲信者を脱するには一言で言うと性悪説を基本とした考え方を持つことに尽きます。

 

性悪説というのは人の本性は悪であるという意味が強いですが、より重要なのは

 

 

「得られたデータは本当に正しいか」

 

 

という疑いにあります。

 

 

 

 

鵜呑みにする前に、技術データ取得までに第三者が関わっている時点で、
これは本当に正しいデータだろうかという気持ちを常に持つのです。

 

 

 

続いて、具体的に技術者はどのような行動を起こすべきなのかについて考えます。

 

 

 

デジタルデータだけに依存せず、必ずアナログデータを取得

 

デジタルデータというのは簡単に改ざんできます。

 

改ざんの恐ろしさについては、以下のコラムでも取り上げたことがあります。

 

・関連コラム

 

技術不正やデータ改ざんの恐ろしさ

 

 

デジタルの技術データ改ざん抑制に効果的なのは、

 

 

「アナログでのデータ同時取得」

 

 

です。

 

 

 

この手のデータが必要になる一例は、冷熱衝撃試験です。

 

・参考情報

 

熱衝撃試験 JIS C 60068-2-14(Na)、MIL-STD-883等、各種規格対応

 

冷熱衝撃試験とは製品や試験片を高温と低温環境で交互に暴露する試験で、
線膨張の違いによって生じる微小変形と、当該変形によって発生する破損や損傷等の有無を検証することが目的になります。

 

 

試験条件によりますが、マイナス数十℃からプラス数十℃まで各規定時間ごとに数秒で環境を激変させるため、環境に暴露される製品や試験片には高温と低温という異なる温度差による衝撃が加わるのです。

 

 

 

ただし低温と高温を一往復して1サイクルという試験になることから、
数千サイクルの評価を行おうとすれば試験には長い時間がかかります。

 

 

このような長時間継続する試験は一度やり直しとなると大変な時間がかかるため、
想定した期間に評価が確実に行われたことを担保する必要があります。

 

 

 

ここで役に立つのがアナログデータです。

 

 

昔ながらのプロッターに温度データをインプットし、
経過時間に応じてデータが記録されていくようにしておきます。

 

 

評価が数カ月続くのであれば、数カ月のデータが記録されるためチャート紙は膨大な量になります。

 

 

仮に同じデータをデジタルデータとして改ざんしようとすれば、PC一台で難なくできるでしょう。
しかし、同じことをチャート紙で再現しようとすると、デジタルのそれよりもかなり難しく、また仮に行うとしても多大な労力がかかります。

 

 

改ざんに労力がかかるということは改ざんされにくいことであり、故にその技術データの信頼性は高まるといえるのです。

 

 

技術データはできる限り改善しにくい形態で取得しておく。

 

 

このような技術データに対する信頼性の意識が、
技術者を技術データを鵜呑みにする盲信者にしないための効果的なやり方の一つになります。

 

 

チャート紙を大量に使うことは環境負荷の観点から望ましくないという意見もありますが、
そもそも行ったことが無駄になって、再度同じことをやる方が環境負荷が高まるのではないか、
といった高い視点から物事を捉えることが肝要です。

 

 

 

データの信頼性判断指標を与えることもある規格

 

例えばビッカース硬度を例にすると、JIS B7725という規格があります。

 

・参考情報

 

JIS B7725 ビッカース硬さ試験―試験機の検証及び校正

 

ビッカース硬度計測値はばらつきが生じることが知られていますが、
上記の規格では基準片硬さと実測の平均値から偏差を算出し、
その数値によってばらつきが許容範囲か否かの判断基準を提案しています。

 

技術データの信頼性について若手技術者に考えさせたい、
といった場合はこのような規格を参考資料として提案することも一案です。

 

 

 

統計学の検定による評価

 

もう一つが検定です。

 

 

群が2つであればt検定、3つ以上であれば分散分析によって、
群間の平均値の差異が、郡内のバラツキよりも支配的であるか否かによって、
群間の同等性を判断する一指標を得ることが可能です。

 

 

 

以前得られた技術データと何かが違うといったことを感じた場合、
このような数学を用いた検証を実施することも選択肢として持っておきたいところです。

 

 

 

ただし、検定はあくまで群間の平均値が同等である、という帰無仮説を棄却するか否かを判断しているにすぎず、
帰無仮説が棄却されないことが必ずしも群間の平均値が同等であることを”保証しているわけではない”ことに注意が必要です。

 

検定の結果も盲信してはいけません。万能ではないからです。

 

 

この辺りは以下のコラムでも述べたことがありますので、
そちらも合わせてご参照ください。

 

・関連コラム

 

技術者がデータの同等性を技術的に判断できない

 

 

 

 

 

 

 

 

今回は技術データを鵜呑みにしないために求められる技術者の姿勢についてご紹介しました。

 

 

 

 

 

 

技術データを盲信せずに真摯に向き合うためには、
今回ご紹介したような考え方や姿勢を若手技術者に伝え、実践させなくてはいけません。

 

 

 

 

 

しかしながら実践するとなると時間や労力がかかるため、
マネジメントに加え、そもそも経営陣がこの手の手間を避ける傾向にあります。

 

 

 

 

忘れてはいけないのはそのような効率注視の考え方が、
結局のところ技術データに対する技術者の真摯な姿勢という土台を揺るがすことになり、
積み重ねてきたことを崩してしまうこともあり得るのです。

 

 

 

若手技術者だけでなく、中堅、そしてベテランの技術者にも求められる考え方に違いありません。

 

 

 

 

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