若手技術者の技術報告書内の一文が長い
公開日: 2026年3月9日 | 最終更新日: 2026年3月9日
タグ: OJTの注意点, メールマガジンバックナンバー, 技術報告書, 技術者の普遍的スキル, 技術者人材育成, 生成AI, 論理的思考力

今回は若手技術者の技術報告書内の一文が長いという課題解決に向けた指導を、
技術者育成の観点から解説します。
技術者の普遍的スキルである論理的思考力の不足は作成文章の一文を長くする
これまで何度か触れてきた通り、
業界問わず製造業に属するすべての技術者に求められる技術者の普遍的スキルにおいて、
その基軸となるのが”論理的思考力”です。
論理的思考力に対する解釈はまちまち
論理的思考力というと、ロジカルシンキングというカタカナ表記で様々な書籍等をイメージされる方も多いかと思います。
または、以下のような単語を思い浮かべる方もいらっしゃるでしょう。
- ・トップダウン/ボトムアップアプローチ
- ・ゼロベース思考
- ・ロジックツリー
- ・MECE
- ・ピラミッド構造
- ・フレームワーク思考
私の理解では、どれも論理的思考力に当てはまりますが、
どれもアプローチ方法の一つと感じています。
技術者の普遍的スキルの主構造である論理的思考力については、
このような一側面の話ではなく、もう少し上位概念を語る必要があります。
技術者の普遍的スキルにおける論理的思考力を一言でいえば、
「技術者が自らを制御できる力」
であるというのが、私の意見です。
本観点については、以下のような過去の連載でも触れています。
※関連連載
第3回 技術業務報告に必須の技術者の論理的思考力 日刊工業新聞「機械設計」連載
論理的思考力が不足する若手技術者の文章は長くなる
若手技術者の論理的思考力が不足した結果、自分を制御できないとどうなるか。
あれも言いたい、これも言いたいとなるでしょう。
生じやすい事象は、
「書く文章が長くなる」
です。
話し言葉である場合、
「話が長くなる」
と同意です。
このような若手技術者が技術報告書を作成すれば、
一文が長くなるということが容易に想像できるでしょう。
何度修正しても一文が長くなる
リーダーや管理職は技術報告書の一文が長ければ、
確認段階で修正をかけると思います。
「こういう風に書けばいいのだ」
と修正すれば、その修正を反映した文章となるため一見すると一文は短くなったように見えます。
しかし同じ若手技術者が別の技術報告書を作成するとまた一文が長い。
これを何度か繰り返して修正できる若手技術者も一定数以上いますが、
何度も同じ指摘をすること自体がリーダーや管理職にとって負担となるはずです。
このような場合は具体的な How to を教えると良いと思います。
How to とは”型”や”パターン”と解釈いただいて大きな問題はありません。
その How to 一つが”並列表現”です。
並列表現の例
並列表現は何かということを解説するより先に、
例題でそれを示してみたいと思います。
生成AIであるGemini 3を用いて、意図的に一文を長くした技術報告書の実験項に該当する文章を作成しました。
内容を読みましたが、論理的思考力が不足する技術者の作成する文章をある程度再現できていると判断しています。
各例文を以下の通り示します。
※以下の文章は Gemini 3 の作成した文章です。化学系、生物系、機械系、電気電子系で作成しました。
※一部、日本語に違和感があったものは手修正を加えています(明らかに違和感のある記述がありました)。
*Gemini 3の作成した文章:ここから*
1. 化学系(合成・物性評価)
試料Aに対してエタノール50mlを加え、攪拌機を用いて室温で30分間一定の速度で攪拌し、
さらに試料Bに対しても同様にエタノール50mlを加え、
攪拌機を用いて室温で30分間一定の速度で攪拌を行い、
加えて試料Cについてもエタノール50mlを加えて攪拌機で室温30分間の攪拌処理を順次施すことで、各試料の溶解性を確認した。
2. 生物系(培養・抽出試験)
シャーレ1に分注した培地へ大腸菌群を接種し、
37℃のインキュベーター内で24時間静置培養を行い、
またシャーレ2の培地に対しても同様に大腸菌群を接種した上で37℃環境下で24時間静置培養を施し、
さらにシャーレ3の培地へも大腸菌群を接種して同様の温度および時間で培養することで、
菌株の増殖速度の個体差を測定した。
3. 機械系(引張・強度試験)
厚さ2mmに加工したアルミニウム合金板の試験片1を引張試験機に装着し、
破断するまで一定の荷重を加え続けて最大強度を記録し、
次に同一形状の試験片2に対しても引張試験機にて同様に破断まで一定荷重を負荷して強度を測定し、
さらに試験片3についても同様の条件で引張試験を繰り返し実施して機械的性質を評価した。
4. 電気電子系(負荷・電圧測定)
試作した回路基板Aに対して5Vの直流電圧を印加し、
各端子における電圧降下の値をデジタルマルチメータで計測し、
続いて同一仕様の回路基板Bに対しても5Vの直流電圧を印加した状態で各端子の電圧降下を計測し、
さらに予備の回路基板Cについても同様に5Vを印加して各部の電圧を計測することで、
製品の出力安定性を確認した。
*Gemini 3の作成した文章:ここまで*
上記の文章をご覧になってどう思いましたでしょうか。
読みにくいとお感じになったのではないでしょうか。
では、それぞれについて並列表現を使って書き換えてみます。
以下の文章は私が修正を加えたものであり、生成AIは関与していません。
1. 化学系(合成・物性評価)
試料A、BおよびCに対し、それぞれエタノール50mlを加え、
攪拌機を用いて室温で30分間一定の速度で攪拌した後、
各試料の溶解性を確認した。
2. 生物系(培養・抽出試験)
シャーレ1、2および3に対して分注した培地へ大腸菌群をそれぞれ接種した後、
37℃のインキュベーター内で24時間静置培養を行い、
菌株の増殖速度の個体差を各シャーレについて比較評価した。
3. 機械系(引張・強度試験)
厚さ2mmに加工したアルミニウム合金板の試験片1、2および3について、
それぞれ引張試験機に装着して破断するまで一定の荷重を加え続けて最大強度を記録することで、
機械的性質を各試験片について評価した。
4. 電気電子系(負荷・電圧測定)
試作した回路基板AおよびB、並びに予備の回路基板Cに対してそれぞれ5Vの直流電圧を印加し、
各端子における電圧降下の値をデジタルマルチメータで計測することで、
各基盤について出力安定性を確認した。
同じ内容にもかかわらず、
私の修正した文章の方が読みやすいと感じたのではないでしょうか。
文字数も圧縮できていることをご確認いただけるかと思います。
概ね文章構成は同じですが、ここで用いているのが並列表現というものです。
並列表現のポイント
化学系の例文を取り上げ、並列表現のポイントを解説します。
原文(Gemini 3 作成)
試料Aに対してエタノール50mlを加え、攪拌機を用いて室温で30分間一定の速度で攪拌し、
さらに試料Bに対しても同様にエタノール50mlを加え、
攪拌機を用いて室温で30分間一定の速度で攪拌を行い、
加えて試料Cについてもエタノール50mlを加えて攪拌機で室温30分間の攪拌処理を順次施すことで、各試料の溶解性を確認した。
並列表現を用いた修正文
試料A、BおよびCに対し、それぞれエタノール50mlを加え、
攪拌機を用いて室温で30分間一定の速度で攪拌した後、
各試料の溶解性を確認した。
対象物の水準は異なるが”同一条件”で評価していることを理解する
例文では試料A、B、Cという3水準の評価対象物が登場しています。
AIの作成した例文であることもあって試料の詳細は原文からはわかりませんが、
少なくとも区別が必要な”水準違いのもの”であることはご理解いただけるかと思います。
これらの試料に対し、溶媒の添加と一定時間の撹拌を行うことで、
当該溶媒への溶解性を確認するという”同一条件”での評価を行っています。
このようなケースが並列表現を用いる典型例となります。
並列表現の定石表現は”ならびに”と”それぞれ/各”
並列表現もいくつかのパターンがありますが、
技術報告書でよく用いるのは、
”ならびに”と”それぞれ/各”
だと思います。
異なる水準をひとくくりで表現する際に用いる”ならびに”
前出の化学系の例でいえば試料A、B、Cという3水準が出てきました。
これをひとくくりとして表現するには”ならびに”を用いて、
「試料A、BならびにC」
といった表現をします。ならびにの代わりに”および”も使います。
これが5水準であっても同じです。試料A、B、C、DおよびEといった形です。
さらに多くなった場合で、かつ連番等で関連した採番をされた場合は、
”試料1から7の7水準”といった表現を用いることもあります。
“それぞれ/各”は同じ条件を異なる水準のものに当てはめるときに使う
並列表現において”それぞれ/各”は大変良く用います。
前出の例であれば試料A、B、Cのすべてに対し、
同一条件で溶媒であるエタノールへの溶解性を評価しています。
そのため、既に述べた”ならびに”を用い、
「試料A、BならびにCに対し、それぞれ○○を行った」
という表現が可能となり、生成AIに悪い見本として作成させた間延びした表現を、
引き締まった文章に変更することができるのです。
指導においてのポイント
今回ご紹介したのは How to に近い具体的な内容になります。
この手の情報は技術者育成という意味では部品の一つに過ぎないため本質ではありませんが、
育成への具体的なアプローチとなるため分かりやすいかもしれません。
How to に関する指導を行うにおいてのポイントは、
「指導する側が、自分でできるようになるまで鍛錬する」
に限ります。
指導するにあたっては、自らが類似の文章を繰り返し書くことで、
そのような文章を紡ぎ出す思考回路を構築することが肝要です。
分かりやすいからといっていきなり指導に取り入れるのではなく、
「まずは指導者側が鍛錬する、または”指導される”必要がある」
ことを念頭に進めることは指導の振れ幅抑制と精度向上に効果的であり、
結果として How to が本格的な技術者育成へとつながっていきます。
ご参考になれば幸いです。
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