技術者が顧客の御用聞きから脱せない

 

技術者が御用聞きを脱するには自身の強みを理解する

 

 

製造業においては、川上、川中、川下という大まかな枠組みがあります。

 

それぞれ材料・素材、成形加工、組み立てと定義されること多いのではないでしょうか。

 

これは製造業を生業とする企業にとって自然な形だと思います。
正確にいうと自然な形と「思い込んでいる」といえるかもしれません。

 

 

このような枠組みにおいて、川中、そして特に川上企業によく見られる社風が

 

 

「顧客要望への追従」

 

 

です。

 

 

 

言い換えれば、

 

 

「御用聞き」

 

 

です。

 

 

 

 

 

御用聞きは製造業の創成期や、大量生産、大量消費が正義だった時代には模範解答だった

 

御用聞き体制は今に始まったことではなく、
比較的昔から一般に行われてきたことでした。

 

 

特に製造業が創成期にあった戦後の日本において、
川下企業が海外の情報をいち早くとらえ、それを日本に導入するにあたり、
川中、川上企業に欲しいものの情報を提供する、
という形で主な商流が構築されるという一種の「型」が存在しました。

 

 

日本に無く、海外にあるものは日本にとっては「新しいもの」になるため、
受け入れられないリスクはあるものの、海外で成功事例として存在する以上、
リスクは低かった、もしくは低いと想定することができたと想像します。

 

 

それ以上に、戦争によって大変な損害を受け、
戦争というものに対する後悔や憎しみ、
それに対応する形で平和に商いをできることに対する希望に満ち溢れていたと考えます。

 

 

 

国を再建しなければならないという危機感と、
ひとまずマズローの第二段階の欲求である「安全欲求」が満たされたことで、
後ろを振り返らずに前進に向けた大きなうねりを力に変えたことで、
日本はどこの国も達しえなかった成功事例を構築するに至りました。

 

 

この成功事例の根底にあるのは、
世界屈指の教育水準によるものであることは、
良く語られることでもあります。

 

 

 

このような流れにおいて、御用聞きはある意味、
成長の模範解答だったといえるでしょう。

 

 

 

 

 

市場ニーズの多様化と多くのもののコモディティー化によって求められる付加価値や新価値

 

今の時代において、これをやれば正解だ、
というものはありません。

 

日本の凋落が叫ばれて久しいですが、この原因は恐らく

 

 

「海外、特に北米や欧州に模範解答が無くなった」

 

 

ということによる焦燥感ではないかと考えます。

 

 

 

日本も十分に成長し、海外のものを導入すればそれが売れるという時代ではなくなってしまったのです。

 

 

 

「海外の事例では」といった前置きの後は、
必ずと言っていいほど北米や欧州の国々が登場するのはその好例ではないでしょうか。

 

 

 

日本にいると気がつきませんが、
業界によっては日本が世界の見本になっており、
むしろ日本が模範解答を生み出さなくてはいけない状況になっているのです。

 

 

 

 

 

川上、川中、川下の流れが”考えない技術者”を量産した

 

このような状況で課題としてあぶりだされているのが、

 

 

「考えない技術者」

 

 

です。今や妄想になりつつある「型にはまればいいだろう」という心理が根底にある可能性が高いです。

 

 

川中、川中、川下のすべての領域において、
自分の頭で考え、試行錯誤し、それを踏まえて当事者意識をもって仕事に取り組む、
という技術者が激減しているように感じています。

 

 

 

これは企業指導を通じ、そして技術者の方々と話していて痛感していることです。

 

 

 

川下企業は今でも正解と盲信する海外企業の情報を取ってきて、
それを具現化することを川上、川中企業に「丸投げ」します。

 

 

 

川中や川上の企業は、基本的に丸投げされたことをどうしたら具現化できるのかのみに思考を注力し、
それが技術的に破綻していないか、より良くするために他の案は無いか、といった

 

 

「自らの頭を使った思考や議論」

 

 

をすることはほとんどありません。

 

 

 

 

今の時代においては上述の通り成功事例を海外から持ってくることは成功精度が高いとは言えない時代になっており、
あくまでそれが日本という市場に受け入れられるか、他の国に受け入れられるか、
そもそもどのようなペルソナを設定するのかということを熟考するしかないのです。

 

 

考えない技術者は量産され続けており、
既に定年退職された、もしくは定年が近い百選錬磨の技術者の方々からみると、
嘆かわしく映っているのかもしれません。

 

 

時代の変化に対応できていないことが見えているためです。

 

 

 

 

 

御用聞きから脱するためには、まず自らの強みと特徴を徹底的にあぶりだす

 

一度考えることをやめてしまった技術者を、
自らの頭で考えられるようにするのは容易な事ではありません。

 

 

しかし、今のままでは先が見えないはずです。

 

 

このような状況でまず製造業企業に属する技術者たちが取り組むべきは、

 

 

「自社、そして自分たちの強みや特徴は何か」

 

 

という事に対する徹底した議論です。

 

 

 

自らの頭で考え、いわゆる新規の技術テーマ創出には新しい考えや技術、
設備などが必要だと考える方々もいますが、それだと

 

 

「今まで培ってきた強みや技術的な知見の積み上げを生かせない」

 

 

という致命的なミスをスタートラインに並ぶ前からすることになります。

 

 

 

「模範解答は外から持ってくる」

 

 

という長い歴史を経て刷り込まれた思い込みからいかに早く脱せるかが勝負なのです。

 

 

 

 

 

自社や自らの強みを引き出す際は、個人や身内だけでやらずできれば自社内の業務と無関係な技術者をモデレーターとして取り入れ、最後はまとめる

 

では実際にどうやるのか。

 

 

最も代表的なやり方は、

 

 

「複数人の技術者チームに、第三者目線を持っているモデレーターを入れて議論する」

 

 

となります。

 

 

 

少なくとも一人は引いた目線で見ることができる人が重要です。

 

 

 

このようにすることで、議論を俯瞰的観ることができるうえ、

 

 

 

「最終的に強みや特徴をまとめる」

 

 

 

ということが可能となります。議論だけでは散らかった状態ですので、まとめることが大変重要です。

 

 

 

そして、ここでモデレーターとしての役割を果たす人物は一般職ではなく、

 

 

 

「技術者、元技術者など、異業種でも技術の勘所のわかる人物が担う」

 

 

 

ということが大変重要になります。

 

 

 

 

技術者の会話を少なくともわかりやすく文面などに落とし込むためには、
専門用語以前に技術者特有の思考回路を理解した上で、
歩み寄れるということが不可欠となります。

 

 

最もいいのは自社内での他部署の技術者に、
このモデレーターの役割を求めるというものです。

 

 

難しければ第三者という考えもあります。

 

 

しかし、必ず技術者としての経験があることが不可欠です。

 

 

 

 

 

まとめられた自社や所属する技術者たちの強みや特徴を基本とした技術テーマ立案がポイント

 

上述の取り組みの結果として強みや特徴がまとまったら、
それらを生かせる技術テーマの企画を立案するのが一つの流れです。

 

 

強制的に自らの頭で考え、自らが模範解答になる可能性のあるものを示す、
ということを行うことになります。

 

企画においては、新しいものを生み出す想像力もさることながら、
それをわかりやすく社内外に伝える「誘導力」が大変重要です。

 

 

技術テーマの企画については、「企画力」という切り口で過去のコラムにて取り上げたことがあります。

 

 

詳細についてはそちらをご覧ください。

 

 

 

・関連コラム

 

技術者の イノベーション と 企画力 1:企画力とその盲点

 

技術者のイノベーションと 企画力2: 企画力 発揮のための3大要素

 

技術者の イノベーション と 企画力 3: 技術者の企画力 とは

 

技術者の イノベーション と 企画力 4: 企画力の現実

 

技術者の イノベーション と 企画力 5:企画力鍛錬の課題と 企画の活用

 

 

 

いかがでしたでしょうか。

 

 

わかりやすい世の中のトレンドに流されることなく、
まずは自社、そして自社に属する技術者たちの強みや特徴をよく理解することが、
御用聞きなどで終わりがちな企業文化を変える大きな一歩となります。

 

 

自社が御用聞きに終わり、単なる下請けに甘んじていることに危機感を覚えている企業において、
是非取り組んでいただきたいものになります。

 

 

 

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