「私もそう考えていました」を連呼する技術者

 

私もそう考えていましたという技術者の後追い発言は周りをしらけさせる

 

 

「私もそう考えていました」と後出し的に発言する技術者が周りにいないでしょうか。

 

 

若手技術者を中心に、中堅の技術者でも多く見られる言動です。

 

 

 

このような発言は技術的な議論をする場で周りをしらけさせることが多いため、
マネジメントから見てもあまり望ましいものではありません。

 

 

今回は「私もそう考えていました」という技術者の潜在的な意識と、
それに対する対策について考えてみます。

 

 

 

 

 

自分の存在意義を示したい or 議論の中で自分の考えが言語化された

 

「私もそう考えていました」という発言の裏にあるのは、

 

 

・自分の存在意義を示したい

 

 

・議論の中で自分の考えが言語化された

 

 

というどちらかの心理によるものが多いといえます。

 

 

それぞれ見ていきます。

 

 

 

 

 

若手技術者に多い存在価値への危機感

 

技術者が

 

「私もそう考えていました」

 

という場合、年齢が若くなるほど

 

「自分の存在意義を示したい」

 

という意識が強くなる傾向にあります。

 

 

「自分は技術的な専門知識も経験も足りない」

 

 

という専門性至上主義にとらわれがちな若手技術者たちは、
何とかして自らの存在に価値があるということを示したい、
という焦りを感じているケースが多いといえます。

 

 

 

その一方で基本的には自尊心が低いため、
リスクをとってまで存在意義を示すことはしたくない。

 

 

 

そのような場合、

 

「他の技術者の発言に乗る」

 

ということは、リスクが大変低いと感じるはずです。

 

 

 

仮にその発言が間違ったものであっても、

 

 

 

「技術的な間違いをしたのは自分ではなく、発言者が主である」

 

 

 

と考えられるからです。

 

 

 

 

低い自尊心を隠すために作り上げたプライドが傷つくのは一大事、
と考える若手技術者にとってよりどころとなるでしょう。

 

 

 

しかも、仮にその発言内容が技術的に正しい、
もしくは発展的な内容につながる場合、
それに同調した自らもその評価を享受できると感じます。

 

 

 

意識している、していないによらず、
技術者は若手を中心にこのような細かい心理的な動きと闘いながら、
自らの存在意義を確認しようとしているのです。

 

 

 

 

 

自らの言いたかったことが言語化された喜び

 

もう一つあるのは、

 

「頭の中で何となくイメージとして持っていたものが、言語化された」

 

という喜び表現として、

 

 

「私もそう考えていました」

 

 

と述べるパターンです。

 

 

 

一概には言えませんが、
これは年齢というよりも職種的に様々な意見を述べる、
発表を行うといった機会の少ない技術者に多い傾向にあります。

 

 

 

自分の考えを言語化する機会が少ない技術者は、
色々考えることがあるもののどのように言語化すれば伝わるのかわからない、
というジレンマを抱えているケースがあります。

 

 

それを他の技術者の発言によって、
自分が考えていたことが言葉としてその輪郭を現すことは、
大変感動的なシーンといえるでしょう。

 

 

そしてその感動そのままに、

 

 

「自分が言いたかったことはこれだ」

 

 

という旨の発言をするのです。

 

 

 

存在意義を示したいものと違い、
本当に心から出た発言と見て問題ありません。

 

 

 

 

 

「私もそう考えていました」という発言は周りをしらけさせる

 

代表的なものとして2つの事例を紹介しましたが、発言の背景はどうあれ、

 

「私もそう考えていました」

 

という発言は周りの技術者ににあまりいい影響を与えません。

 

 

 

最初に発言した技術者の発言から話が発展しない、
単一的で同調的な議論に終始しているという雰囲気になってしまうからです。

 

 

技術者にとって、何かしらの技術的な発展を目指すということは最重要業務です。

 

 

 

最初に意見を述べた技術者に同調するだけの発言ばかりでは、
その発言した技術者にとって発展は無い無意味な印象になります。

 

 

意見を述べた技術者が優秀であればあるほど、
上記の考えは強くなります。

 

 

また仮に複数の技術者が同席していた打ち合わせの場合、

 

 

「また、後出しじゃんけん的な発言か」

 

 

とあきれる技術者が多くなると思います。

 

 

 

これでは何かしらの発展や前進が必要な技術者から見て、
「楽しくない」場となります。

 

 

 

よって「私もそう考えていました」という発言を減らすという努力が、
マネジメントに求められます。

 

 

 

 

 

後出しを回避するには先に発言させるのが第一

 

「私もそう考えていました」という発言を減らすためのやり方として、最も一般的なものが

 

 

 

「先に技術者に発言させる」

 

 

 

というものです。これは少人数ほど効果的なアプローチになります。

 

 

意見を有するマネジメントや技術者が、

 

 

「○○について議論したいが、まず意見を聴かせてほしい」

 

 

と発言を促します。

 

 

 

 

そして、意見を聴かせてほしいという後に是非付け加えてもらいたい言葉があります。

 

 

 

それは、

 

 

「発言に無かったものは自分の考えにはないことを理解してほしい」

 

 

ということです。

 

 

 

このような補足をすることで、
後から付け足してもそれは自分の考えとして評価されないということを、
技術者は理解すると思います。

 

 

 

 

 

自分の存在意義のためはもちろん、言語化できないのも技術者としては問題

 

何故、後からの発言は自分の考えではないという宣言をする必要があるのでしょうか。

 

 

それは、

 

 

「技術者にとって最重要スキルは、自分の考えをわかりやすく周りに伝えることに集約される」

 

 

からです。

 

 

 

上記で述べたことは、技術者の普遍的スキルによってもたらされる大変重要な力といえます。
このスキルについては、以下のような連載をはじめ何度も取り上げています。

 

 

・関連コラム

日刊工業新聞社 機械設計での技術者育成に関する連載開始
(連載タイトル: 技術者は専門性だけでは生きられない!技術者に必須の普遍的スキルとは)

 

 

 

 

 

 

自分の存在意義という技術者組織から見てあまり意味のないものはもちろんですが、
自分の考えを言語化できないという状態も組織から見ると問題です。

 

 

周りの人間に自らの考えを理解させることができない技術者は、
技術的なコミュニケーションに課題を抱えている状態にあるためです。

 

 

 

 

 

技術者は他の意見に依存せず、自分の意見をわかりやすく伝えることが肝要

 

技術者には一刻も早く自らの考えを、
自分の言葉で周りに伝えられるようになるため、
他の技術者の発言に依存することをやめることが求められます。

 

 

 

自分の考えを述べるようになるためには、
自分の頭を使うという地道な取り組みの繰り返ししかないのです。

 

 

 

 

自分の考えを自分の言葉で述べられるようになれば、
技術報告書作成のスキルも上がり、
それに応じて技術的なコミュニケーション能力が高まります。

 

 

 

今回紹介したような「私もそう考えていました」という発言一つにもマネジメントが気を遣うことで、
技術者は一つひとつ普遍的スキルを向上させることが可能となります。

 

 

 

 

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