企業に勤める技術者の学術論文活用法とその読み方 Vol.151

 

学術論文は技術の核の理解に役立つ

 

 

企業における技術者の業務は、その多くが顧客要望に応じた製品実現に向け研究開発をする場合が多いのが実情です。

 

当然ながら市場ニーズに応え、必要な製品を生み出すのは企業に勤める技術者の最優先命題であることに異論は多くないと考えます。

 

ただし、昨今の技術的なトレンドでいうと情報量が増加した上、その多様化が進んだことで本質をとらえることが難しくなりつつあります。

 

 

そのため顧客要望だけでは本当の意味での市場ニーズをとらえているとは言い難く、
企業の技術者であっても自らが発信者として技術情報を発信し、
自らが技術の核となる部分を周知するということで、本質的な市場ニーズを引き出すということが求められます。

 

このような行動をする際に技術者として試されるのが、

 

 

「技術の本質を理解しているか」

 

 

というです。

 

 

今回のコラムでは、自社の技術の核を発信するために不可欠な、
技術の本質への理解に向けた一つのアプローチである学術論文の読み方ということについて、
企業に勤める技術者を対象として述べてみたいと思います。

 

 

 

 

 

学術論文の読み込みの業務への取り込みは技術の本質理解の第一歩

 

企業の技術者の多くは高専や短大、
そして4年生大学や大学院で理工学の教育を受けてきています。

大学や大学院はもちろん、進んだ教育を行う教育機関であれば高専でも学術論文を取り入れるのは一般的になりつつあります。

 

学術論文というのは日本語のものもありますが、一般的には英語で書かれます。
色々な考え方はあるものの、学術業界では少なくとも英語が世界でもっとも使われる共通言語になっているのがその理由です。

 

私も化学や物理、数学などの学術論文を読むことがありますが、
技術的な本質をきちんと述べていると感じるものの90%近くは英語で書かれています。

 

日本語のものであっても古い論文や専門書の中には大変内容が素晴らしく、
本質をついているものもありますが、ここ最近はあまりそのようなものに出会っていません。

 

残念ながら最近の英語論文でも類似の傾向があります。
最も大切な部分を飛ばしてしまっていたり、過去の論文の引用だけで終わっているものも多く、
読者に技術の本質を伝えようという意識が希薄化しているのではないかと危惧しています。

 

 

このような時代の流れはあるものの、

 

「技術の本質的な議論が行われるのは、適正な査読が要求される歴史ある学術論文である」

 

という根底を揺るがすような状況にはまだなっていないと考えます。

 

 

学術論文においては、

 

 

1. どのような目的でその研究が進められたのか

 

2. その目的に対する結論は何だったのか

 

3. その結論を担保する技術的理論は何か

 

4. 本論文で報告されたことが、どのような形で学術・技術業界の進化に貢献をするか

 

 

といったことが述べられます。

 

昨今の学術論文は最後に述べた「貢献有無」を必要以上に重視してしまう傾向にあるのが個人的には残念ではありますが、技術的理論を突き詰めるという3番目の姿勢は高く評価できる部分であり、これこそが今回の主題である「技術の核を周知する」ということに関連する部分になります。

 

特に自社技術に関連するような学術論文において、
結論を担保するためどのような技術的理論が展開されるかを理解することは、
上述の情報発信にとって大変重要な知見となります。

 

 

 

 

 

企業に勤める技術者に教えるべき学術論文の読み方

 

学術論文を読むことは大切であるということを伝えて、
自主的に読み込みができるような技術者は恐らく企業においては少数派です。

 

さらに言うと、仮に学術論文を読める技術者がいたとしても、
大学や研究機関の研究室にいるような研究者と同じような視点になってしまい、
技術の核を発信し、市場ニーズの本質を引き出すという視点が無い場合が殆どのはずです。

 

企業は日々の売上とそこから生み出される利益を原資として、
新しい技術を生み出していくというのが運営の本質にあるため、
新たな技術的理論を発見する、当該業界の発展に貢献するということを本質とする大学や研究機関のそれと混同することは避けなくてはいけません。

 

厳しいことを言うようですが、大学や研究機関と同じ目線を持つのであれば、その覚悟は学術論文を読めますというようなレベルで終わるのは論外です。

大学や研究機関の属する業界は、日々の予算を得るため

 

「自らが筆者となって論文執筆と、査読を経ての掲載を中心とした成果物を求められる」

 

という大変厳しい世界です。

 

そのため、企業の正社員である技術者と比べると、無期限雇用の職員になれれば別ですが、大学や研究機関の研究者は圧倒的に不安定な立場になりがちです。

 

 

また企業では、はじめから研究と開発を分けている部門もありますが、
基本的に企業で行うべきは間違いなく開発です。

 

 

その開発で一定の成果を出した技術者に対してのみ、
時間軸にとらわれず、ある程度腰を据えて業務ができるような研究に近い地位を与えるのが企業の考える研究である、というのが私の考えです。

 

開発を知らない技術者に企業での研究をやらせてもうまくいきません。

 

 

話を元に戻します。

 

多くの企業において、恐らく技術者は学術論文の読み方を知らない場合が多数派だと思います。

 

より正確には、

 

「企業の技術者としての学術論文の読み方」

 

という意味です。大学や研究機関のそれとは別とご理解ください。

 

 

企業の技術者が、技術の核に関する情報発信をするにあたり学術論文をどのように読むべきかについて述べてみます。

 

 

手順は以下の通りとなります。

 

1. 概要を読む

→多くの学術論文において、タイトル、筆者の後に出てくる「Abstract」という部分です。
ここを読むことで自社技術に関連することが書かれていそうか、技術の核となる部分が述べられていそうかの判断を行います。

 

2. 結論を読む

→技術報告書では目的の次に来る結論ですが、学術論文では何故か最も最後に出てきます。「Conclusion」と書かれています。
結論では学術論文で明らかとなった部分が総括として書かれているため、技術の核として述べるのであれば何を軸とするのかについて判断することができます。

 

3. 図や表、グラフを見る

→図や表、グラフは視覚的な情報密度が高いため、概要を見るのに適した部分です。
これらを見ながら、何が述べられていそうかのイメージを膨らませます。
結論に関連するような結果がどこで表現されているのかを探すのが最優先になります。

 

 

 

多くの場合、概要と結論を読めばその論文が「技術の核の情報発信」ということに対し有意義か否かの判断はできるかと思います。
その一方で、図、グラフそして表などを見ることで興味を惹かれる部分が掲載されている可能性もあります。

 

このように企業にいる技術者にとって求めらられるのは学術論文のすべてを理解するというよりも、
技術の核は何かを理解し、どのように情報発信すればいいのかを考える戦略の一助とすることが主目的ですので、すべてを読み込む必要はありません。

 

限られた業務時間で行うことを想定すれば、論文の内容に優先順位をつけて焦点を絞り、
かける時間を抑制するというのも大切なことです。

 

 

 

 

 

学術論文はどのようにして入手するか

最後に学術論文の入手方法について述べます。

 

主な方法は以下の通りです。

 

1. オンラインでの論文サイトで購入する

 

2. 業者経由で取り寄せる

 

3. 大学や研究機関で複写をする

 

 

最も手っ取り早いのは1のやり方です。

 

 

open access の論文を除き、一般的に論文は有償になります。
サイトで購入すると電子データで購入できるため、社内閲覧にも応用しやすいメリットもあります。

 

2のように業者を使うのも一手です。
大手企業ではこのような方法を使うのが多いようです。

 

ただ、インターネットで殆どの学術論文は手に入るので、
業者を使うメリットは論文というよりも、書籍の一部の章の複写といった使い方に限られるかもしれません。

 

3は複数の学術論文を見たいのであれば選択肢に入れておきたいアプローチです。

 

国立情報学研究所の CiNii というサイトは、
見たい論文が日本のどの研究機関や大学の図書館にあるのかがわかるようになっています。

※ CiNii Articles – 日本の論文をさがす – 国立情報学研究所

 

私も過去にここで読みたい論文を探し、大学の図書館や研究機関の図書館を訪問し、
複写したこともあります。

 

 

 

 

いかがでしたでしょうか。

 

企業にいる技術者であっても、日々自らの技術を鍛錬する姿勢が求められます。

 

その日々の取り組みの中で、学術論文を読むということを取り入れることはこれからの技術者にとって大変重要です。

 

このような地道な取り組みこそが、技術の核を理解するということにつながるためです。

 

その一方で限られた時間でどのように学術論文を読めばいいのかについては、
マネジメントが理解の上、導線をひくことが求められます。

 

情報発信はこれからの技術者にとって大変重要な取り組みです。

 

しかしそれは発信者自身が技術の核をもっていなければ、右往左往するものとなり、
本質的な市場ニーズをあぶりだすところか、見てもらえることさえできません。

 

 

上記のような取り組みを自社内に取り入れることで、
少しずつでも情報発信に向けた準備をすることが肝要です。

 

 

 

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