思い込み の激しい若手技術者への対応


理系、文系という分け方そのものは国際的にはあまり一般的ではありませんが、
日本ではよくこのような分け方で専門性を評価することがあります。


当然ながら理系といいながらもここで何度も述べているように文章作成力に裏付けられた論理的思考力が必要だ、と述べているように文系の力も必要ですし、文系だからといって定性的な考えだけで営業や企画といった仕事ができるわけもありません。


理系文系の区別の是非に関する議論は他の専門家の方に譲るとして、
理系出身が多くを占める技術者は一つの特徴があります。


それは、


話を最後まで聴かずに思い込みで走る


という特性です。


どういうことなのでしょうか。

 

 

技術者の思い込み

 

仕事がら様々な職種の方とお話をする機会がありますが、
間違いなく言えるのは技術者は年齢に依らず思い込みが激しい傾向がある、ということです。


ここで多い思い込みのきっかけは、


過去に勉強したこと、自分の専門性に近いことがでてきたとき、自分の経験則に溺れてしまう

 

という所から始まります。

 

例えばある材料の評価をお願いしたいとします。


材料の評価と一言でいっても様々な観点があります。


– 引張、せん断といった機械特性はどうか

 

– 弾性率や線膨張といった物理特性はどうか

 

– 静的特性に加え、動的疲労特性やクリープ特性はどうか

 

– 材料の供給元の信頼性はどうか

 

– コストや納期はどうか

 

– 他社での適用実績や課題はどうか

 

– 関連した特許はどうか


上記は一例です。

 

前半はどちらかというと技術的観点。
後半は経済や経営、知的財産といった管理的観点も入ってきています。

 

恐らく若手技術者指導者層の方々は上記のような範囲、
場合によってはより広範囲の話をしているにもかかわらず、
若手技術者が仮に「材料力学」を学んでいた場合、


「材料の機械特性のみ」


に意識が集中してしまう可能性があります。

 

そうすると、


「この材料の引張特性や破断伸びは…..」


「材料の試験評価規格としては……」


「材料試験結果の単位の見方は……」


といった自分のわかる範囲、またはやったことのある範囲のみに極端に偏った思考回路が出来上がってしまいます。

 

するとこれが一種の思い込みとなり、
本来見てほしいより広範囲の部分の優先順位が大きく下がる、
または無意識領域に押し込められてしまい、
見方によっては一種の思考ループにはまってしまうのです。

 

材料の評価をしてほしい、という文言の意味するところの全体を理解せず、
自分の強いところ、わかるところのみに自己完結で話を進め、
結果として時間と労力の無駄遣いになった、

という経験は若手技術者指導者層の方にも多いかもしれません。


これは常に世界を相手に競争を続ける製造業を生業とする企業における研究開発体制において、非常に大きなリスクとなり得ることは追加の説明は必要ないと思います。

 

 

若手技術者の思い込みを回避するための施策

 

ではどうすればこのような思い込みを回避させられるのでしょうか。


最も効果的なのは、


「目の前で指示事項をまとめさせる」


ということです。

 

決してきれいに資料でまとめてこい、といった無駄な時間と労力をかけることを言ってはいけません。
綺麗な資料が必要になるのはずっと後の話です。


まず指示する側が白紙の紙を渡し、


「今から説明することをその紙の上にメモした上でまとめてくれ」


というように被指示者である若手技術者に話をします。

 

そして説明を始めて、若手技術者のメモを適宜確認しながら指示事項の説明を行います。


この指示事項が終わった後、


「今から5分で指示事項を箇条書きにまとめてくれ」


といいます。


ポイントは時間を区切るとの箇条書きにすることです。

 

ダラダラと時間をかけたり、細かいことを書かせることは無意味です。技術者の人材育成に重要なのは短期集中の考え方です。

 

この時にすらすらかけて、さらにその内容が指示事項を網羅しているのであれば、
恐らく若手技術者が思い込みで走ることは無いと思います。


その一方でなかなか筆が進まない、書いていることが支離滅裂、という場合は要注意です。


この時点で解説を行い、考え方の修正を行っていくということが、
指示事項を正確に伝えることにつながります。

 

 

まとめさせる時の留意点


上記のような育成指導を行うにあたってのポイントをいくつか述べておきます。

 

1. 指導される側の技術者の年齢

実体験として指導成功の可否に関連する最も大きい要素は指導される側の年齢です。

 

年齢が若いほどその思い込みが激しい一方で、修正できる余地が非常に高いのです。


より具体的には35歳を超えてくると急激に指導に対する吸収力が低下し、育成は困難となります。


できれば20歳代、理想的には配属後2~3年目までにこの手の指導を習慣にすることが極めて重要です。


技術者人材育成はまさに年齢との闘い。


明確な期限があることを理解しなくてはいけません。

 

2. 指導する側の論理的思考力

指導される側の年齢に加えて重要なのが、指導する側の論理的思考能力です。

 

上記のように思い込みを回避するために目の前でまとめさせる、
ということは裏を返すと指導する側は既に頭の中で自分の考えをまとめられている、
ということが前提となります。

 

自らの考えがまとまっていないまま指示を出せば、
どのようなやり方をしても、またどのくらい優秀な若手技術者であっても、
その指示事項を理解することはできません。


ある程度年齢を重ねた技術者の悪いところですが、
相手が話を分からないと自分の説明の不十分さを省みる前に、


「最近の若手は話が通じない、人の話を聴いていない」


というロジックにはまり、ただ怒鳴りつける、失望を意味するため息をつく、
といった最悪の指導状況に陥ってしまいます。

 

きちんとした指示や指導をするには、指示を行う側の論理的思考力も極めて重要である。


これを改めて認識いただき、指導する側も現在の立場に胡坐をかかず、常に鍛錬を積むということが重要といえます。

 

 

 

いかがでしたでしょうか。


若手技術者の思い込みの心理とそれに対する施策についてご紹介しました。


特に大きいのが指導を受ける側の年齢と指導する側の論理的思考力。


この2点を常に意識した両輪の人材育成体制構築が、
最終的には世界で闘える研究開発体制へとつながっていきます。

ご参考になれば幸いです。

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